“夢の治療法”再生医療は、「産業」に育つか

“夢の治療法”再生医療は、「産業」に育つか

出所:2013-09-25 東洋経済オンライン

17年目の黒字が見えた、J-TEC小澤洋介社長に聞く
大崎 明子 :東洋経済 記者

京都大学の山中伸弥教授のノーベル賞受賞以来、注目度ががぜん高まった再生医療。安倍政権の成長戦略の中にも戦略市場創造プランとして、「再生医療」が位置づけられた。これまで日本で保険収載が認められた再生医療の製品は、実は、ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(以下、J-TEC)の自家培養表皮「ジェイス」と自家培養軟骨「ジャック」の2つのみだ。同社は赤字続きだったが、今年から追い風を受けている。経済産業省の補助金も付き、ものづくり日本大賞「内閣総理大臣賞」を受賞。2016年3月期には黒字化も見えてきた。小澤洋介社長に今後の戦略と課題を聞いた。

――赤字続きでしたが、再生医療に追い風が吹いていますね。

創業以来の14年間、逆風の中を歩んできた。当社はほかの再生医療ベンチャーに比べればうまく行っていると思うが、それでも創業15年目にして(1999年2月1日設立)、今2014年3月期も最終赤字9億円の見通しだ。開発開始から販売まで自家培養表皮「ジェイス」は10年、自家培養軟骨「ジャック」は13年を要した。この半年で風向きは大きく変わったが、日本が再生医療に本格的に取り組むには、最後のチャンスだと思う。

創業当時は、厚生労働省(当時厚生省)から、薬事法の外でやってかまわないと言われた。つまり、規制対象外でサービス業ということだ。しかし、まもなく薬事法を通してくれと言われ、そのうえ、「確認申請」という上乗せのガイドラインができてしまった。治験の前に品質と安全性を証明せよ、というもので、細胞利用製品と遺伝子治療の2つだけに適用される。

今後は、そうした規制は取り払い、薬事法を改正して早期承認制度を導入することになっている。この点は非常に歓迎している。

――自家培養表皮「ジェイス」の損益は厳しいですが、耐えてきました。

「ジェイス」は米ハーバード大学のハワード・グリーン教授が1971年に発明した技術が元になっている。1980年代から米国では人に投与されている。われわれとしては、皮膚疾患や美容を対象にできればハードルが低かった。しかし、厚生労働省の方針としては、救命というベネフィットの大きい分野をということになり、やけど、それも重症熱傷が対象となった。

第1号製品は当初は6割が無償提供に

対象は「深達性Ⅱ度およびⅢ度熱傷創の合計受傷面積が体表面積の30%以上の患者」と定義されており、年間900人ぐらいが対象となるが、うち、500人が亡くなってしまう。山奥でヘリコプターも止まらず、治療ができない場合があり、自殺が原因によるやけどでは治療を拒否される患者さんもいるので、実際は年間100~150人にしか提供できない。

提供を開始した2009年には保険適用ができる病院の施設基準が厳しく、25しか該当せず、皮膚の枚数も20枚までとされていたので、6割を無償で提供していた。その後、2年に1度の診療報酬改定で交渉して、施設は130施設、枚数40枚に引き上げてもらい、現在では97%が有償となった。

一方、皮膚を培養する3週間の間に亡くなるケースが多いので、100人以上の注文を受けても、移植できたのは60人余り、ということになってしまう。しかも、移植できなかった製品、出荷前製造停止の費用はすべて当社が負担する。売り上げは5億円しか立たず、事業として成り立たない。

30%未満も含めれば対象の患者数は5000人になるのだが、医療財源に限りがあるので難しい。

――再生医療を成長戦略にするには、薬事法などの規制の問題もありますが、財源問題が大きいですね。

薬事法を変えるだけではダメで、財源という出口の議論が必要だ。医療財源が限られている中では、自己負担率にある程度のグラデーションをつけていかないと無理だと思う。今は、患者にとっての選択肢が3割負担と、高額医療費制度の1%負担しかない。これではいずれ財源はパンクしてしまう。ただ、国として再生医療を強化するとしているが、さまざまな治療法がある中で、財源の奪い合いになる。その点はたいへんハードルが高い問題だ。だが、承認を取ったけれど、保険がつかない、では事業化はできない。

――自家培養軟骨「ジャック」の承認で黒字化が見えてきました。

ジャックは4月に保険収載が決まり、150施設が条件を満たしており、「ジェイス」より条件が厳しくない。対象市場も「ジェイス」は10億~30億円、「ジャック」は数百億円規模だ。当社はようやく2016年3月期に、17年目にして1億0500万円の黒字に浮上する。これも前倒しするつもりです。

「再生医療の産業化」を掲げ、開発から販売まで

――なぜ、J-TECだけが、再生医療で2つの製品の事業化ができたのでしょうか。潰れた会社や先の見えない会社も多いですが。

われわれは、創業の理念として「再生医療の産業化」を掲げている。

R&Dだけでは承認は取れない。わが社はバイオベンチャーの中では唯一、工場を持っている会社。0歳から99歳の皮膚まで培養した。最終製品にするための承認は、科学だけでなく培養の技術、生きた細胞を安定して全国に運ぶための物流、さらに、医療機関向けのトレーニングマニュアルなどすべてそろっていないと、取れない。

再生医療のパフォーマンスというのは、50%はわれわれの製品、すなわち「細胞がよい状態にあるか」にかかっているが、残りの50%は「生きた細胞をどうやって運ぶか」という物流、病院の医師の手技、術後のリハビリなどにかかっている。だから、「産業化」のためには、病院や物流も巻き込まなくてはならない。しょせんは業者であるわれわれが、医師も啓蒙していかなければならないので、かなり厳しいことだ。

開発から製造、販売まで一貫して行い、病院を回れる営業部隊を持っているということが当社の特徴であり、潰れていった会社との違いだ。再生医療のみで182人の会社だ。一方、大企業の場合も、再生医療だけをやっている部隊だけを見れば当社ほど人数は多くないと思う。

――15年の赤字を支える資金はどうやって確保したのですか。

私の仕事の半分はおカネを調達することだった。創業時は、ニデックと富山化学、INAX(当時、現LIXIL)、東海銀行グループ(当時、現三菱UFJ)の出資でスタートした。医療機器会社のニデックもJ-TECも父が創業し、今は兄がニデックを、私がJ-TECをみている。ニデックがよく支えたが、ニデックも一時期傾きかけたことがあり、J-TECは重荷だった。そこで、J-TECはベンチャーキャピタルから資本を導入し、株式も上場した。

3年前からは富士フイルムに筆頭株主になってもらっている。株式市況の悪い中で40億円入れてもらい、現在、子会社の富山化学を合わせると持ち株比率は46%になる。

同種移植の開発、美容分野にも意欲

――パイプラインとしては、自家培養角膜上皮に取り組んでいますが、これから広げたい分野は。

高齢化社会の中で、皮膚については、クオリティ・オブ・ライフにかかわる皮膚疾患や美容にも広げて生きたい。これまでは自家培養表皮しかやってこなかったが、同種移植・他家培養(本人ではないが人間の細胞)にも取り組みたい。

開発戦略は15年前にできていて、ひとつの方向性として、まずはからだの表面、次に体の中ということでは、まずは皮膚、次に軟骨に取り組もうと決めて、そのとおりにやってきた。

もうひとつの方向性として、同種移植は市場が大きく、良質な細胞を使える。だが、日本では承認が取りにくいだろうと考えた。「他人の細胞を商売にしていいのか」という倫理観や宗教観の問題が出てくる。日本や欧州では他人の細胞をおカネで買ってはいけないことになっている。ただ、米国や韓国では認められており、儲かっている会社がいくつもある。

富士フイルムと連携して海外事業に乗り出す

――富士フイルムとのシナジー戦略は?

資本を入れていただいたときに、2つお約束をしている。ひとつは次世代の再生医療製品を一緒に開発すること。富士フイルムは化学材料をいっぱい持っているので、インプラントに使いたいという希望があった。もうひとつは、事業開発、たとえば海外展開を一緒にやりましょうということ。その中から、経済産業省の公募事業になった中国、タイにおける再生医療実用化プロジェクトの話も出てきた。中国では皮膚科、形成外科の審美治療を目的とした自家培養表皮の提供を、タイではメディカルツーリズムが盛んなので、自家培養軟骨の提供を考えている。

提携して3年以上になるので、そろそろ成果も出したい。富士フイルムからすれば、化粧品事業をやっているので、皮膚には関心が高く、X線フイルムとの関連で整形分野ともかかわりが深い。一緒にできることは多いと思っている。

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