腎臓の再生医療で人工透析のない社会の実現を目指す

腎臓は、血液中の老廃物や余分な水分を回収して尿を作り出す臓器であり、腎臓の働きは生命の維持と密接に関わっている。近年、腎不全による人工透析の患者数は増加傾向にあり、重い腎臓病で人工透析の治療を受けている患者は国内に約30万人くらいおり、我が国の医療費増大の一因となっていると考えられている。腎不全などのように根本的な治療法がない疾病の場合は、最終的には腎移植に頼らざるを得ないが、日本は欧米に比べて生体間移植のドナー提供者が少ないため、その代替治療法として、再生医療による治療への期待が高まっている。
 

マウスES細胞から作成した腎臓組織、右上:ヒトiPS細胞から作成した腎臓組織、左下:マウスES細胞から作成した糸球体、右下:ヒトiPS細胞から作成した糸球体。
出所:日本科学技術振興機構HP(http://www.jst.go.jp/pr/announce/20131213/index.html)


 
 
しかし腎臓組織は、生体組織の中でもかなり複雑な構造をしているため、心臓の筋肉や膝などの軟骨のようなシンプルな生体組織に比べ、腎臓に関する再生医療研究はやや遅れていると言われている(例えば、実際に尿を出すところまで実現するためには、ネフロンと呼ばれる腎臓の小さな組織を100万個くらい集め、腎臓のような構造体を作り出さなければ尿は出ないが、尿を出せるくらいに機能するサイズまで成長させた立体的なネフロンは、まだ技術的に作ることが難しい)

これまで、熊本大学の研究チームは、多能性幹細胞からネフロン前駆細胞を経て、糸球体や尿細管を含むネフロンと呼ばれる腎臓を構成する「小さな構造体」を作製することに成功していましたが、今回の新たな研究成果では、ネフロン同士の接続や配置といった腎臓の立体構造の形成に重要な役割を果たす「尿管芽」に注目し、多能性幹細胞から尿管芽を誘導する方法の開発を行い、腎臓の高次構造の再現に成功した。
 

腎臓の一部、ES細胞から作製 熊本大、マウスで成功

マウスのES細胞(胚〈はい〉性幹細胞)から、尿を集める集合管を含んだ腎臓の一部を作り出すことに、熊本大発生医学研究所の研究グループが成功した。将来的な臓器再生への可能性を示すものだという。

残念ながら、今回の研究成果をすぐに透析患者などの臨床に応用することは難しいが、再生医療研究では最難関の一つに挙げられる腎臓組織が、試験管内でどのように複雑な臓器として再現したらよいのかという課題に対して、ネフロン同士の接続や配置に重要な役割を果たしている”尿管芽”に着目することにより、将来的に、腎臓(の一機能)を再現できるかもしれないという実現可能性を示したと言う意味で、大いなる一歩だと言える。
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