iPS細胞を用いた立体組織開発の課題と現状

横浜市立大の研究グループが、ヘリオス、クラレ、味の素との共同研究により、マイクロスケールの肝臓組織を安定的かつ大量に作製することに成功したと発表した。この研究成果により、今後、重篤な肝不全の患者に対する、臓器移植に代わる代替治療法の開発が大きく前進することになる。
 
現在のところ、肝臓の機能不全に対しては、確立された根治的治療法は肝臓移植のみである。しかし、日本国内では圧倒的なドナー不足に加え、その適応は未だ一部の症例に留まっている。ウイルス性肝疾患の制御は抗ウイルス療法の進歩により容易になった一方で、非アルコール性脂肪肝炎による肝硬変は増加しており、iPS細胞やES細胞を使った、肝臓器移植の代替となる再生医療の新規治療法の開発に対する期待は大きい。
 
ヒトiPS細胞からミニ肝臓の作成に成功
引用:http://www.yokohama-cu.ac.jp/univ/pr/press/130701_ips.html
(横浜市立大学プレスリリース(2013年7月1日))

iPS細胞からミニ肝臓を大量製造 再生医療実現に道

出所:2017-12-06 日経新聞社

横浜市立大学の武部貴則准教授と谷口英樹教授らは、ヒトのiPS細胞から肝臓の機能を持った小さな組織「ミニ肝臓」を大量に作れる手法を開発した。従来の100倍以上となる約2万個のミニ肝臓を1枚の容器の中で作製できる。肝臓病の患者にミニ肝臓を移植する再生医療実現の足がかりとなる。

再生医療による立体的な臓器(組織)作成の大きな課題の一つは、複雑な血管構造の再現である。
 
臓器や組織の各細胞が生き続けるためには縦横無尽に張り巡らされた血管が必要だ。同研究グループは、2013年に、iPS細胞由来の肝臓の前駆細胞と血管の細胞、接着剤の役目を果たす間葉系細胞の3種類を混ぜ合わせて一緒に培養し、細胞同士が自ら集まって塊(スフェロイド)ができ、わずか2~3日で立体的な"肝芽"すなわち"ミニ肝臓"に育てることを成功した。また、そのミニ肝臓は、人の肝臓特有の代謝物質を産生しており、人の肝臓と同じ機能を持つことが示された。
 
現在、日本のサイフューズ社、米国のOrganovo(オルガノボ)社、ナノ3D・バイオサイエンシズ社、カナダのアスペクト・バイオシステム社、ニコンとJSRが出資している米国ベンチャーのCarbon3D社などが、再生医療技術を活用した立体臓器を作るバイオ3Dプリンターの開発にしのぎを削っている。また、3Dプリンターだけでなく、ゼラチンハイドロゲルなどの生体吸収性物質を利用することによって、骨や軟骨、人工血管、心筋や心臓の血管などの立体的な組織作製の研究をすすめられている。これらのバイオ技術によって作製された立体的な生体組織の課題は、人工的に作られたヒト組織が、特に複雑な構造を持てば持つほど、大型になればなるほど、組織として生き続けさせることが難しいところにある。
 
しかし、今回の研究成果のように、サイズの小さい組織であれば、細胞本来が持つ特性を生かして比較的、簡易に立体臓器組織を作ることもできる。もしマイクロスケールの臓器の芽を患者の体内に移植し、その後の成長機序は生物本来が持つ進化のチカラに委ねて、より大型の機能的な臓器に育てられれば、人工的に複雑な大型組織を作る必要がなくなり、将来の有力な治療法候補としてより現実的となる。実際の重症肝臓疾患の治療にはミニ肝臓が数万個以上必要となるとされるが、これまで一度に数十個しか作製できなかったミニ肝臓を一度に2万個作られるという今回の技術開発の成功は、臓器移植に代わる代替治療法の開発に大きく前進することになった。
 
同研究チームは今後、肝臓の機能異常でアンモニアが分解できない子供の先天性の病気(OTC欠損症)を対象に、臨床研究の実施を目指すとしている。
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