iPS細胞から完全な腎臓組織を作製|ヒトへの臨床応用に向けて大きく前進

複雑な構造を持つ腎臓は再生が難しい臓器の一つとされ、これまで国内外の様々な研究グループにより再生医療技術の研究開発が行われてきた。2017年11月10日に当サイトでも報告した通り、熊本大発生医学研究所の研究グループがES細胞から尿を集める集合管を含んだ腎臓の一部を作り出した(腎臓の一部、ES細胞から作製 熊本大、マウスで成功)。今度は慈恵医科大学の研究グループが、iPS細胞による「完全な」ラットの腎臓組織の作製に成功を発表した。この組織は、尿を生成するなど腎臓の機能を完全に備えているといい、ヒトへの臨床応用に向けて大きく前進しそうだ。
 

慈恵医大、ラットで腎臓作製 臨床応用に道

東京慈恵会医科大学の横尾隆教授らは腎臓のもととなる細胞から、尿を作る機能を持つ腎臓を作製する技術を開発した。ラットの腎臓になる前駆細胞をマウス胎児に注入するとともに、マウスの前駆細胞を薬剤で除去する工夫を加えた。将来は腎不全患者向けの腎臓の再生医療実現を目指す。

今回の研究は、腎臓の元になるラットの前駆細胞から、完全な腎臓組織の再生に成功し、さらには、腎臓でもっとも大事な働きである尿排出機能が確認されていることは大きな成果である。2010年にも、東京大学の中内啓光教授(東京大学医科学研究所/スタンフォード大学)が、膵臓を作ることができないマウスに対して胚盤胞にラットのiPS細胞を注入し、マウスの体内にラットの膵臓を作製することに成功したが、今回の研究成果も同様に、腎臓の作製も技術的に可能であることが示された。

ブタ体内でヒトの臓器作製
出所:東京大学医科学研究所HP

 
これまで立体的な臓器を作製する研究は、3Dプリンターや足場材料(スキャフォールド)などを活用して立体臓器(の一部)を作製する研究開発が幅広く行われてきたが、複雑で高次的な機能・構造を持つ臓器の再生は、なかなか上手くいっていない現状があった。そこで、この技術的な課題を克服するために、ヒトの臓器再生を、別種の動物の発生過程に委ねてしまおうというアプローチが考案された。もちろんこの場合、生命倫理や法律についての議論が必要不可欠となるが、複雑な構造を持つ臓器の再生医療には有力な治療法の一つであることは間違いない。
 
慈恵医大の研究グループは今回の研究成果を踏まえ、今後、よりヒトに近いブタやサルに対して応用研究が行うことを予定しており、10年以内に臨床応用できることを目指している。
 
なお、文部科学省の専門委員会は2017年8月に、移植用の臓器を作るために動物の受精卵にヒトの細胞を注入し、胚を動物の子宮に戻す研究を認めることで大筋合意しており、来年にも国は指針を改定する見通しとなっている。将来の再生医療の一つの方向性として、人工透析や移植以外に治療法のない末期の慢性腎不全患者などのような深刻な重症疾患患者に対して、ヒツジやブタといった大型の哺乳類を使ってヒトの臓器を再生させる治療法の研究開発は、今後ますます加速することは間違いがない。大型の哺乳類による再生医療の臨床応用に関して、早急に、生命倫理や法律について議論を進め、法体制の整備をする必要がある。
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