iPS細胞を用いた再生医療で脊髄損傷に光を

iPS細胞を用いた再生医療で脊髄損傷に光を

神経の再生において重要なのは、軸索の再生(Regrowth)、細胞の補充(Replacement)、そして機能の再生(Recovery)という3つのRだ。われわれはiPS細胞から神経前駆細胞を誘導し、マウスやサルの脊髄損傷モデルを用いて非臨床試験を行い、適切な時期(亜急性期)に適切なiPS細胞から誘導した神経前駆細胞を移植することにより、腫瘍の発生なく、長期にわたって運動機能が回復するということを明らかにした。この過程で取得した特許のうち、霊長類の脊髄損傷のシステムに関しては、日米で特許が成立し、既に幾つかの企業で使われている。

こうした基礎研究を、どのようにして臨床に持っていくか。脊髄損傷のご本人からiPS細胞を取り出し、神経前駆細胞を作り、安全性を確認した上でご本人に移植するとなると、どう考えても1年はかかるプロセスになる。だが、損傷部位は6カ月もたつと、細胞移植にあまり適さない時期になってしまう。そこで、前もって安全性などを確認した再生医療用のiPS細胞由来の神経前駆細胞ストックを作っておき、患者さんが来られたときにいつでも移植できるような体制を構築中だ。将来、治験に進める必要があるので、慶應義塾大学で作製したのとまったく同じレベルの再生医療用のiPS細胞由来の神経前駆細胞ストックを作製し、スムーズに治験に進めるよう、パートナーとなる製薬企業と連携しているところだ。

今後の展望として、まずは亜急性期脊髄損傷に対する臨床研究を開始し、引き続き慢性期に対する臨床研究に進む。研究者主導でフェーズ1、フェーズ2を乗り切った後は、速やかに企業による治験を行い、実用化を目指す。脳梗塞など他の疾患への適応拡大も進めていきたい。

アルツハイマー病に関する研究も進めている。アルツハイマー病の原因として、アミロイド仮説が知られている。実際、アルツハイマー病の患者さんからiPS細胞を抽出し、そこから神経細胞を誘導すると、わずか2カ月程度でβアミロイドの産生が倍以上に増えていた。これはアルツハイマー病の原因の解明や創薬の研究に使える成果だが、われわれは新規の診断法の確立にも使えるのではないかと考えている。再生医療の技術に、画像診断技術やゲノム解析の技術を併せて活用し、無症候の段階でアルツハイマー病を見付け、早期に治療する。これはまさに先制医療といえる。

アルツハイマー病に対する先制医療は、医学的にも経済的にも、大きなアウトカムが期待できる。アルツハイマー病になるかもしれないという診断がつけば、早期に治療介入でき、その結果としてアルツハイマー病にならずに済むということを、何とか実現していきたい。

第1部:先端医療、再生医療における産学連携
講演2 再生医療の現場から~アカデミア発の医療技術開発と産学連携
岡野栄之氏 (慶應義塾大学医学部生理学教室教授)

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