■ 糖尿病はどのような病気/症状ですか?



糖尿病とは、血液中のブドウ糖の濃度が異常に高い状態になることを指します。糖尿病の原因は、血糖値を下げるホルモンであるインスリンの作用が低下することにあります。

 

糖尿病を放置しておくと、糖尿病神経障害(手足のしびれ、怪我や火傷の痛みへの無自覚、筋肉の萎縮、筋力の低下や胃腸の不調、立ちくらみ、発汗異常、インポテンツ等の様々な自律神経障害の症状です。)、糖尿病網膜症(目の底にある網膜という部分の血管が悪くなり、視力が弱まります。中には失明する場合もあります。また、白内障になる人も多いといわれています。)、糖尿病腎症(腎臓の糸球体という部分の毛細血管が悪くなり、腎不全を引き起こす。機械で血液中の不要な成分をろ過し尿を生成する人口透析が必要になります。)をはじめとする合併症を引き起こし、目、腎臓を含む体中の様々な臓器に重大な傷害を及ぼします。

 

糖尿病には、以下のようにいくつかのタイプがあります。

 

タイプ
概要
1型糖尿病 膵臓のβ細胞というインスリンを作る細胞が破壊され、体内のインスリンの量が絶対的に足りなくなることで起こります。子供のうちに始まることが多く、以前は小児糖尿病とか、インスリン依存型糖尿病と呼ばれていました。
2型糖尿病 インスリンの出る量が少なくなって起こるものと、肝臓や筋肉などの細胞がインスリン作用をあまり感じなくなる(インスリンの働きが悪い)ために、ブドウ糖がうまく取り入れられなくなることで起こるものがあります。食事や運動などの生活習慣が関係している場合が多く、日本の糖尿病の95%以上はこのタイプです。
遺伝子の異常や他の病気が原因となるもの 遺伝子の異常や肝臓や膵臓の病気、感染症、免疫の異常等の他の病気が原因となって、糖尿病が引き起こされるものです。薬剤が原因となる場合もあります。
妊娠糖尿病 妊娠中に発見された糖尿病で、新生児に合併症が出ることもあります。




■ 糖尿病の主な治療法とは?



糖尿病の治療は分類、または重症度(進行度)によって異なります。

 

タイプ
治療法
1型糖尿病 このタイプではインスリンの量が足りないため、強化インスリン療法や持続的インスリン皮下注射等を行います。
2型糖尿病 まずは食事療法と運動療法が行われます。これによって血糖値が正常化するならそれで問題はありません。食事療法、運動療法で血糖値が正常化しない、もしくは最初から血糖値が高くてこれらの治療だけでは不十分と考えられる場合には、1型糖尿病と同じくインスリン注射等を行います。




■再生医療/iPS細胞による脊髄損傷の治療



β細胞の再生と細胞療法

 

これまでにも、幹細胞(複数系統の細胞に分化できる能力(多分化能)と、細胞分裂を経ても多分化能を維持できる能力(自己複製能)を併せ持つ細胞であり、ES細胞やiPS細胞もこれに含まれます。)を用いたβ細胞を含む膵臓の中の膵島という組織糖尿病患者に移植する細胞組織移植療法が研究されてきました。

 

しかし、この膵島移植には、①ドナー膵島組織が不足していること、②移植後の拒絶反応、及び③自身の免疫系がβ細胞を破壊する自己免疫が再び起こることなどにより移植膵島の働きが徐々に悪くなることの3つの問題点が指摘されておりました。

 

まず、①ドナー膵島組織が不足していること、及び②移植後の拒絶反応といった課題は、iPS細胞を活用した治療方法により解決されると考えられています。実際に、2008年にノースカロライナ大学の研究グループが、皮膚細胞から樹立したヒトiPS細胞からインスリン産生細胞への分化誘導を報告しています。

 

tounyou02

 

また、③自身の免疫系がβ細胞を破壊する自己免疫が再び起こることなどにより移植膵島の働きが徐々に悪くなるという課題については、例えば、ある研究では、免疫拒絶を防ぐようデザインした特別なカプセルに膵島細胞を封入し移植する方法が検討されています。

 

しかし、iPS細胞からインスリン産生細胞を作る効率は、全細胞の内の10%弱であり、移植療法に使用するには効率を高める必要性があります。また、私達の身体の中のβ細胞と同等の生理機能を有する細胞を作ることは未だに困難であることが多く、ヒトでの臨床試験を実施するには、まだ数年はかかると考えられています。

 

Ⅰ型糖尿病の病態解明

 

2009年にハーバード大学の研究グループが、Ⅰ型糖尿病の患者の皮膚細胞からiPS細胞を樹立し、実際に培養皿の上でインスリン産生細胞に分化誘導できたことを報告しました。このⅠ型糖尿病患者由来のiPS細胞から作製されたインスリン産生細胞は、Ⅰ型糖尿病の発症に関与する遺伝情報を有し、免疫系によって破壊されるβ細胞の特徴を備えていることが予想されます。このiPS細胞由来のインスリン産生細胞を使ってⅠ型糖尿病の発症機構の解明を行い、それに基づく新規治療法の開発研究への進展が今後期待されます。



■ 脊髄損傷に関する再生医療/iPS細胞の最新研究成果



再生医療適応症 作成する細胞 主要な研究機関 基本情報 研究の進捗状況 最新ニュース
糖尿病 膵β細胞 東大分子細胞生物学研究所 click status_rat click02
label_kiso 多能性幹細胞を用いてマウスの体内でラットの膵臓を作製することに成功(科学技術振興機構(2010/9/3))
label_rat 東大、ヒトiPSで膵島組織 マウスの血糖値改善(日本経済新聞(2013/3/18))
label_hito



desease_syousai_kiso

糖尿病の治療において、iPS細胞やES細胞をはじめとする幹細胞の再生医療への応用は、大きな期待が寄せられているテーマです。具体的には、糖尿病患者(主に1型糖尿病患者)の細胞からiPS細胞を樹立し、インスリンを生成するβ細胞に分化誘導することで、1型糖尿病の発症メカニズムを解明するという用途、及びiPS細胞由来でβ細胞や膵臓を人工的に作り出し、患者に移植するという用途が検討されています。

近年の実際の研究成果の発端としては、2009年にハーバード大学の研究グループが、1型糖尿病の患者の皮膚細胞からiPS細胞を樹立し、培養皿の上でインスリン産生細胞に分化誘導することに成功したという報告があります。

 

【幹細胞を活用した治療方法】

 

<iPS細胞/ES細胞を活用した治療方法>

 

ラットのiPS細胞を用いて、マウスの体内に膵臓を作り出すことに成功

 

2010年に、東京大医科学研究所の中内啓光教授らの研究チームは、ラットのiPS細胞から、マウスの体内でラットの膵臓を作製することに成功したと発表しました。この研究においては、膵臓ができないよう遺伝子操作したマウス(ノックアウトマウス)の受精卵に、ラットのiPS細胞を入れると、生まれたマウスの体内にはラットの膵臓ができたことを発表したのです。そして、この生まれたマウスが持つiPS細胞由来の膵臓は生体内で正常に機能し、インスリンを分泌し、高血糖などの症状がなくなったことを確認しました。

 

この研究以前に、ES細胞を使ったマウスでの成功例などが報告されていましたが、マウスとラットのように種を超えてiPS細胞から立体的な臓器をつくったのは初めてで、移植可能な臓器を患者自身の細胞からつくるという治療法の実用化の第一歩であったといえるでしょう。(なお、特定の組織が欠損したマウスの胚盤胞にiPS細胞を注入して、生まれてくるマウスで、その欠損組織をiPS細胞由来の細胞で置き換える方法は「胚盤胞補完法」と呼ばれます。)

 

詳しくはこちら

 

 

tounyou04

中内啓光教授らが実施した研究方法概要(胚盤胞補完法)

 

ブタの膵臓再生に成功

 

tounyou05

中内啓光教授らが実施した研究方法概要(胚盤胞補完法)

 

2013年に、中内教授らは、遺伝子操作によって作った膵臓のないブタの体内で、別のブタの正常な膵臓をつくることに成功しました。研究方法は、2010年のマウスでの研究で使用した「胚盤胞補完法」で、生まれたブタは、注入した細胞から形成された膵臓をもっており、血糖値は正常で、成体まで育ち生殖能力も正常だったと報告されています。

 

この研究はブタはヒトと臓器の大きさが近く、飼育頭数が多くことから、臓器不足への切り札として注目されています。

 

最終的に、中内教授らは、遺伝子操作で膵臓が作られないようにしたブタの受精卵にヒトのiPS細胞を注入して体内で育てるという構想を持っています。患者自身の細胞からiPS細胞を作り、ブタの体内で臓器に成長させれば拒絶反応は起きない可能性が高いからです。しかし、現在の日本のガイドラインでは、ヒトiPS細胞を注入した動物の胚を子宮に入れて発育させることが禁じられているため、実験を進めることができません。今般、内閣府の懇談会において、生命倫理や法律についての議論が進められています。

 

詳しくはこちら

 

 

マウス由来のiPS細胞から膵島作製に成功

 

2011年に、東京大学の宮島篤教授らの研究チームは、マウスの皮膚から作製したiPS細胞から、血糖値を下げるインスリンを分泌する膵島を分化・誘導することに成功したと発表しました。

 

これまでの研究で、インスリンを分泌する細胞自体の作製には成功していましたが、分泌量が少なかったり、逆に血糖値を下げすぎないよう働く細胞が必要であったりする等の課題がありました。そのような中で、本研究は、立体構造になった膵島そのものを作製することに成功したことで、今後、ヒトの皮膚等から作製したiPS細胞からの膵島作製、そして移植に向けた一歩となった点で大きな意義があります。


ヒト由来のiPS細胞から膵島作製に成功

 

2013年に、宮島教授らは、ヒトiPS細胞から膵島を作製して、血糖値が高い実験用マウスに移植し、そのマウスの血糖値を正常に戻すことに成功しました。

 

この実験では、まず、ヒト由来のiPS細胞を作製して、低分子の化合物を加えるなど培養条件を工夫し、膵島細胞に分化・誘導をしました。また、この膵島細胞が、ブドウ糖に反応し、インスリンを正常に分泌するのを確認しました。そして、この膵島を、血糖値が高い実験用マウスに移植した結果、約1日で血糖値が下がって正常レベルになり、この状態が約1カ月続きました。

 

tounyou06

宮島教授らの研究概要

 

今後は、移植した膵島細胞ががん化しないよう安全性を高めるほか、膵島細胞を効率よく大量につくる技術などを磨く必要があります。この点について、熊本大学の粂昭苑教授らの研究グループは、iPS細胞からβ細胞(膵島にあるインスリンを分泌する細胞)を作製する研究に取り組んでいます。粂教授らは2002年からES細胞を使って、膵臓に関する研究を進めており、2008年にはβ細胞の前段階の細胞である前駆細胞を、ES細胞から効率的に作る方法を開発しました。現在は、この成果を応用し、iPS細胞から前駆細胞、そしてβ細胞へと効率よく分化させる方法を開発しています。詳しくはこちら

 

<成体幹細胞を活用した治療方法>

 

成体神経幹細胞を膵臓に移植

 

2011年に、独立行政法人産業技術総合研究所の浅島誠フェローと幹細胞工学研究センター幹細胞制御研究チームの桑原知子主任研究員、器官発生研究チーム伊藤弓弦研究チーム長、小沼泰子研究員らは、米国ソーク研究所Fred H. Gage教授らと共同で、ラットを用いた動物実験により、成体神経幹細胞を膵臓に移植する糖尿病の再生医療に有効な方法を開発し、その治療効果を確認しました。具体的には、まず、神経細胞の元となる成体神経幹細胞を、比較的採取が簡単な鼻嗅球から樹立・培養し、インスリンを産生しやすい状態に導いた上で、糖尿病ラットの膵臓に移植することで、継続的な血糖値低下をもたらすことを確かめました。

 

tounyou07

成体神経幹細胞の膵臓への移植治療概要(独立行政法人産業技術総合研究所HPより抜粋)

 

今回開発した技術は自家細胞(鼻嗅球からの成体幹細胞)の移植なので、ドナー問題はなく、免疫抑制剤による副作用の心配もないため、より自然な再生医療につながると考えられます。また、インスリンを産生する細胞が継続的に成体神経幹細胞から補充され、治療効果が長く持続します。更に、遺伝子導入過程を一切含まないのでがん化などのリスクが低く、安全性が高いのも利点の一つです。

 

詳しくはこちら

 

膵島細胞と間葉系幹細胞の融合細胞を用いた糖尿病治療

 

また、幹細胞移植の効果の持続性維持という観点からは、2013年の京都大学の角昭一郎・再生医科学研究所准教授、柳井伍一・同研修員らの研究グループによる、膵島細胞と間葉系幹細胞の融合細胞を用いた糖尿病治療実験が注目されます。

 

角教授らは、増殖能力が強い強靱な間葉系幹細胞に注目して、ラットの膵島細胞と、大腿骨から骨髄を採取して培養した間葉系幹細胞に電気的な刺激を与え、融合させました。そして、その融合細胞を糖尿病ラットに移植したところ、血糖は少しずつ低下していき、3ヵ月後には他の糖尿病ラットに比べて明らかに低い値まで低下しました。

 

詳しくはこちら

 

【幹細胞以外を活用した治療方法】

 

2013年に、ハーバード幹細胞研究所のダグ・メルトン氏ら研究チームは、β細胞の増殖を強力に刺激するホルモンを発見し、「ベータトロフィン(betatrophin)」と名付けました。マウスを使った実験で、ベータトルフィンは平均的なマウスに比べ、β細胞の生成を最大で30倍も高めることが判明し、ベータトロフィンを増やすことで血糖値が低下することも確認しました。そして、このベータトルフィンはヒトの体内にもあるといいます。

 

ベータトロフィンは、最初の段階では2型糖尿病の治療に活用することが考えられていますが、1型糖尿病の治療にも役立てられる可能性があります。

 

また、ベータトロフィンに関する基礎研究は、米国立保健研究機構による資金提供を受け行われていて、ヒトを対象とした臨床試験は早ければ3~5年以内に開始できる見込みです。この点で、臨床応用に至るまでには様々な技術的な障壁があり、実用化までは10年単位の時間が必要とされる幹細胞を活用した治療方法に比べて、早期の実用化が期待されています。

 

 

臨床研究の見込み

 

以上のように基礎研究は着実に進んでいますが、ヒトへの臨床研究の目途はたっていません。文部科学省のiPS細胞研究ロードマップによると、平成31年前後に臨床研究がスタートする予定になっていますが、このスケジュール自体が平成21年に作成されたもので、予定より前後する可能性があります。

 

tounyou03


desease_syousai_yotei
今後も上記で紹介した研究機関において、基礎研究が進められることになります。、膵島細胞の効率的な作製、ガン化リスクの軽減など安全性の確保、移植効果の持続性確保などの課題を一つひとつ潰していくことになります。

(参考資料)


厚生労働省 糖尿病ホームページ http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/seikatu/tounyou/
文部科学省 iPS細胞等研究ネットワーク ホームページ http://www.ips-network.mext.go.jp/

再生医療とiPS細胞の医療情報/ニュースサイト「エヌオピ」Copyright© 2018 アクウェスト株式会社. All Rights Reserved.
Top