■ 心不全/心筋疾患はどのような病気/症状ですか?




shinkin01

心不全とは、心臓の働きが不十分になり、全身が必要とする血液量を送り出せなくなった状態のことをいいます。心不全の原因は様々であり、心筋梗塞や心臓弁膜症等の心臓病は勿論、高血圧で長年心臓に負担がかかっている場合等でも次第にその働きが落ち、心不全の原因となります。
人間が生きていくためには、体の各部分に十分な酸素と栄養が行きわたることが必要です。酸素と栄養を運ぶのが血液で、その血液を循環させるポンプの働きをするのが心臓です。したがって、心不全になると、だるい・疲れやすい・動悸等、全身に様々な不具合が出ることになります。

 

 

■ 心不全/新規疾患の主な治療法とは?




心臓の働きを低下させた元の原因の疾患を治療することになりますが、急性心不全(安定した状態から急激に悪化する場合で、心筋梗塞等に伴う心不全がこれに当たります。)か慢性心不全(それなりに体全体のバランスがとれ、状態が安定している場合で、高血圧、心臓弁膜症、拡張型心筋症等に伴う心不全がこれに当たります。)かどうかによって治療方法が異なります。

 

心不全の分類
治療法概要
急性心不全 心臓負荷を軽減し、心拍出量を増加させることが優先され、迅速な処置が求められます。例えば、狭心症や心筋梗塞が原因であれば、冠動脈に風船(バルーン)を入れて膨らませ、この動脈の流れをよくする風船治療や、冠動脈バイパス手術等が必要になります。
慢性心不全 利尿薬や強心薬等といった薬物療法や、心臓弁膜症における人工弁置換術といった外科的治療があります。

 

しかし、すでに心臓の働きがかなり低下している(重症心不全)場合は、これらの治療方法の効果にも限界があるため、補助人工心臓の植え込みや心臓移植が検討されることになります。もっとも、人工心臓は何十年も使えるほどの耐久性はなく、最終的には心臓移植が必要になるケースも多いです。そして、日本で心臓移植が必要な患者は1000人以上いるとされていますが、脳死での臓器提供は年間20~30例にとどまり、全く足りていないというのが現状です。


■ 再生医療/iPS細胞による心不全/心筋疾患の治療




iPS細胞は心筋細胞や内皮細胞などの細胞になる能力をもっています。この能力を用いてiPS細胞より分化させた心筋細胞や心筋細胞になる能力をもつ前駆細胞を患者に移植することにより、心不全になった心臓の機能を回復させる研究がすすめられています。

shinkin03

 

細胞移植による心機能の回復は①移植した細胞が生着して心筋細胞として働くことで心機能が回復する②移植した細胞がサイトカインという伝達物質を分泌することにより心臓での組織の修復や血管の新生が促進されるというメカニズムが考えられています。現在、以下のような、より効率よく安全なiPS細胞を用いた心筋再生治療を開発するための研究が国内外で進められています。

 

これまでにも心筋梗塞モデルマウスなどの動物実験で、ES細胞(iPS細胞と同じく、様々な異なる細胞に分化し、増殖する能力を持つ発生初期の胚由来の細胞です。しかし、ヒトの起源となる受精卵を用いるため、倫理上の問題があるうえ、通常の臓器移植と同様の拒絶反応の問題があります。)から分化させた心筋または心筋前駆細胞を移植することにより、心臓の機能を回復させることができたという報告があります。

 

また、心筋梗塞を起こさせたブタに人のiPSで作った心筋シートを貼りつける実験を行い、心機能の改善を確認できたという報告や、iPS細胞から心筋細胞に分化させた後、その心筋細胞を培養し、心筋梗塞後等に出現する不整脈の原因となる旋回波(心臓内における興奮の旋回)を起こす心筋細胞シートを作成し、ヒトの心臓病メカニズム解明に向けた第一歩を踏み出したという報告もあります。



■ 心不全/心筋疾患に関する再生医療/iPS細胞の最新研究成果



再生医療適応症 作成する細胞 主要な研究機関 基本情報 研究の進捗状況 最新ニュース
心筋梗塞/心不全 心筋細胞 京都大学iCeMS
阪大医学研究科
慶應義塾大学
東京女子医大
click
status_rat
click02
label_kiso ヒトES/iPS細胞から作った心筋細胞シートで不整脈モデルを開発(京都大学(2012/12/3))
label_rat ブタに心筋シートを貼りつけ、心機能の改善を確認(読売新聞(2013/4/22))
label_hito

【最新の研究動向】

基礎研究の成果

 

<iPS細胞を用いた再生心筋細胞移植による重症心不全治療法の確立>

 

shinkin07大阪大学の澤芳樹・心臓血管外科教授と慶應義塾大学の福田恵一・医学部循環器内科教授が中心となって、基礎研究を続けて来られました。

また、京都大学の中辻憲夫教授らも、iPS 細胞を心筋細胞に効率的に分化を促進させる新しい小分子化合物を発見しました。詳しくはこちら。福田教授は、iPS 細胞から心筋細胞への分化誘導に有効な物質を特定し、又心筋細胞を大量に増やすことができる増殖因子を解明しました。更に、同氏は、残った未分化幹細胞の混入による腫瘍化の危険性を回避するため、培養液の成分を工夫することで心筋細胞を純化精製する方法を開発しており(詳しくはこちら)、免疫不全マウスにおいて移植心筋細胞が腫瘍形成をしないことを確認しました。

 

 

このようにiPS細胞から作製した心筋細胞が患者の心筋の機能を回復させるどうかを検証するために、ブタ等の大型動物に対して、iPS 細胞由来の心筋細胞を移植し、経過を観察することで、心筋細胞移植の安全性および有効性を評価する必要があります。

 

shinkin08この点について、澤教授は、心筋梗塞を起こさせたブタに、人のiPS細胞で作った心筋細胞を培養したシートを貼りつける実験を行い、長期間の生着及び移植先のブタの心機能の改善を確認しました。移植先のブタには心臓には癌化がみられず、安全面も問題なかったようです。

 

 

文部科学省 「再生医療実現化ハイウェイ」より抜粋

 

 

 

 

 

 

なお、iPS細胞を用いた再生心筋細胞移植とは少し離れますが、慶應義塾大学の家田真樹・医学部特任講師は、心臓の中の心筋以外の細胞(線維芽細胞)に心臓発生に大事な3つの遺伝子を導入して、直接心筋細胞を作製することに成功しています。この発見はiPS細胞を用いた再生心筋細胞移植につぐ次世代の再生医療として注目を集めています。詳しくはこちら

 

<iPS細胞の疾病の仕組み解明や創薬研究への活用>

 

中辻教授らは、iPS細胞由来の心筋細胞に電気刺激を与えて、当該細胞に不整脈の症状を起こすことに成功しました。また、種々の薬剤を投与し、不整脈治療に寄与する因子を発見しました。これにより、頻脈性不整脈の病状と治療のメカニズム解明を可能になりました。詳しくはこちら

 

臨床研究の見込み

 

上記の通り、iPS細胞から作製した心筋細胞のシートの移植は、現在大動物で安全性、有効性が検討されています。そして、文部科学省のiPS細胞研究ロードマップによると、早ければあと3年程度で臨床研究に移行する可能性があります(上記の家田講師が研究している心筋直接誘導法は新しい技術ですので、臨床研究までは5年以上かかることが予測されます。)。日本ないしは世界に数多といる重症心不全患者のために、そして、移植を待機しながら命を落とす患者の数を少しでも減らすことができるように、安全面には当然配慮しつつ、上記の先生方による総力を挙げた研究の推進が期待されるところです。

 

なお、大阪大学では、(iPS細胞由来の心筋細胞移植ではありませんが、)患者本人の足の骨格筋から採取した筋芽細胞を培養・シート化して心臓に移植する方法を研究し、既に臨床試験が始まっています。そして、実際に、重症心不全の患者に対してこの治療が行われ、人工心臓が外せる程に心機能が回復し、無事退院され、現在は健康な人と変わらない生活をされています。詳しくはこちら

 

今後の予定

 

<iPS細胞を用いた再生心筋細胞移植による重症心不全治療法の確立>

 

iPS細胞由来の心筋細胞移植について、文部科学省のiPS細胞研究ロードマップによると、平成24年から平成26年の期間前後で大動物を用いた前臨床研究を継続し安全性等を検証した後、平成27年ないしは平成28年あたりに、ヒトへの臨床試験が開始される見込みです。

 

shinkin08

「iPS細胞研究ロードマップ平成21年6月文部科学省」より抜粋

 

<iPS細胞の疾病の仕組み解明や創薬研究への活用>

 

上記の中辻教授らが発表した、iPS細胞由来の心筋細胞を用いた不整脈症状の再現・分析について、今後は、不整脈治療に使える新薬のスクリーニングへの応用や、電気ショックによる頻脈性不整脈に対する治療のメカニズム解析にも利用可能で、より有効で新しい治療法の開発が期待されます。詳しくはこちら

 




(参考資料)


国立循環器病研究センターHP http://www.ncvc.go.jp/cvdinfo/index.html
文部科学省 iPS細胞等研究ネットワーク ホームページ http://www.ips-network.mext.go.jp/

再生医療とiPS細胞の医療情報/ニュースサイト「エヌオピ」Copyright© 2018 アクウェスト株式会社. All Rights Reserved.
Top