再生医療とは何ですか?

再生医療とは、病気やケガによって自己修復できない臓器や組織を、人工的に培養した幹細胞などに
よって作製し、再び患者の体内に移植などを行い、失われた機能を回復させる、細胞を活用した治療法です。
言い換えると、治療に最適な組織や臓器を作成し、人体移植によって機能を回復させる治療法とも言えます。
 

幹細胞は、自己増殖能力を持ち、もともとカラダの中に自然に存在しているもの(成体幹細胞)と、
人工的に作製されるものの2種類があります。
 

もともとカラダの中に存在する幹細胞は、神経幹細胞、造血幹細胞、上皮幹細胞などと呼ばれ、
その種類に応じて、限られた種類の細胞を生み出すことができます。例えば、骨髄や末梢血などに
ある造血幹細胞からは、赤血球や白血球、リンパ球など約10種類の血液の細胞が作られ、
神経幹細胞からは神経細胞などが作られます。
 

また、人工的に作られる幹細胞の中で、代表的な幹細胞は、ES細胞とiPS細胞です。これらは、
もともとカラダの中にある幹細胞とは異なり、カラダのどんな細胞にもなることができます。
 

ES細胞は、受精卵から胎児になるまでの胚と呼ばれる状態から取り出して作製されます。
一方、iPS細胞は、既にヒトに成長したカラダの細胞(皮膚や血液など)から作製されます。
ES細胞もiPS細胞のどちらも研究が盛んに行われており、それぞれにメリットとデメリットが
存在していることに注意が必要です。
 

メリット
デメリット
ES細胞
  • あらゆる臓器、組織になる可能性がある
  • ほぼ無限に増殖が可能
  • 倫理的な問題がある
  • 安定して供給できない
  • 拒絶反応が起きる可能性がある
iPS細胞
  • あらゆる臓器、組織になる可能性がある
  • 安定的に供給ができる
  • ほぼ無限に増殖が可能
  • 拒絶反応の可能性が低い
    (自分の細胞を使った場合)
  • がん化の可能性がある

 

残念ながらES細胞には、本来であれば人間に成長できたはずの命の芽を、治療のために破壊してしまうという
重大な倫理的な問題があります。通常、ES細胞は不妊治療などで採取されて不必要となった受精卵から作られます。
 

たとえ廃棄される予定の受精卵でも、受精卵に対する人権が無視されているという考え方もあり、国によっては、
予算を打ち切られたり、研究そのものが禁止されたりしている場合があります。実際、アメリカでは倫理的な問題から
ES細胞の研究に対して国から研究費を出費しないなどの政策がとられました。また、ES細胞の研究には、
大量の受精卵が必要となるため、韓国では卵子の売買が行われたりするなどの課題も起きています。
 

再生医療では、どのような病気が治るのですか?

再生医療では、手術・投薬などによる従来の治療法では治療困難とされる難病の根本的な治療が可能になる
と考えられています。例えば、これまで根本的な治療法がなかった脊髄損傷やパーキンソン病などです。
もちろんES細胞は、あらゆる臓器、組織になる可能性があるので、これまで治療が可能であった治療も
より安全性や精度があがるかもしれません。将来的には立体的な臓器の作製も期待されていますが、
まずは皮膚や網膜などのように、構造が簡単な組織・部位から実用化が始まると思われます。
 

-日本国内で研究対象となっている主要な疾病

・神経   → 脊髄損傷、パーキンソン病、アルツハイマー病など
・眼    → 加齢黄斑変性、スティーブ・ジョンソン症候群など
・骨・軟骨 → 関節リウマチ、変形性関節症、関節損傷、骨折など
・歯    → 歯周病など
・血管   → 心筋梗塞、慢性閉塞性動脈硬化症、バージャー病など
・血液   → 白血病など
・筋肉   → 心筋梗塞、心筋症、筋ジストロフィーなど
・脂肪   → 乳房再建など
・腎臓   → 糖尿病など
・皮膚   → 熱傷など
・毛髪   → 熱傷、禿頭症など
 

現在、日本国内で再生医療の研究が進んでいるカラダの部位は、アキレス腱、半月板、筋肉、末梢神経、
中枢神経、肝臓、血管、血液、腸管、骨、軟骨、乳房脂肪、皮膚、食道、心筋、膵臓、眼、脳、髪などです。
現在研究が進んでいる以下の疾病に加え、世界中の研究所で他にもさまざまな疾病に対する研究が行われています。
 

これまでの治療法と何が異なるのですか?

再生医療では、根本的な治療法がなかった病気やケガを治せるかもしれない、という点でこれまでの治療法とは
全く異なります。また、従来の治療法の問題点(合併症や薬剤による副作用、長期治療による高コストなど)が
解消/低減されることなども期待されています。
 

疾病別に最新情報を掲載しておりますので、詳しくはエヌオピの疾病別のページをご覧ください。
 

いつ実現されるのですか?

実は、既に再生医療は実現されており、その代表例は骨髄移植です。これは1970年代から世界中で実施されており、
これが幹細胞を使った治療の始まりです。それ以前にも、火傷の患者に本人の皮膚細胞を培養してシートのようにして
貼るという、今で言う再生医療が行われていたと言われています。近年では、軟骨や角膜上皮の再生医療が行われ、
近い将来、眼の網膜の再生も実用化される見込みです。
 

しかし、これらの再生医療は複雑な構造を持たない単純な構造の組織ばかりです。今後の大きな課題は、
複雑な血管を必要とする、肝臓や膵臓などのさまざまな臓器に関する治療や神経などが実用化の
主要なターゲットになっていくでしょう。
 

2013年、世界で初めて、日本国内でiPS細胞による臨床試験が開始されました。最初は、リスクの低い、
加齢黄斑変性と呼ばれる眼の病気がターゲットとなりますが、翌年以降、脊髄損傷やパーキンソン病などの
臨床試験が計画されており、順次、実施される予定です。
 

また、医学的な課題だけでなく治療費や産業化の課題も多く存在し、再生医療を誰もが受けられるようになる、
という意味では、少なくとも2020年頃になってしまうかもしれません。ただし、日本だけでなく、世界中で
研究や実用化、産業化が進められており、予想よりも早く治療が受けられる可能も少なくありません。
 

どこで治療を受けられるのですか?/どのくらい費用がかかるのですか?

現在、iPS細胞を用いた再生医療は、日本国内では実施されていません。
 

一部の疾病(加齢黄斑変性(2013年))のみ、現在、わずかな患者を対象に安全性と有効性を確かめる臨床試験が
行われています。また近年、美容皮膚科などの一部の診療科では「再生医療」をうたう自費診療(保険適用外)が
行われています。例えば、福岡市の美容クリニックでは韓国人を対象に本人の幹細胞投与を多数実施していることが
明らかになっています。これらは、韓国内では禁じられている医療行為であり、日本では安全性や有効性が
確認されていないにもかかわらず、アンチエージングなどの名目で幹細胞投与が行われているとみられます。
再生医療は新しい治療方法なので、患者自身が、「安全性や有効性が確認されていないこと」や
や「科学的な根拠が十分に検証されていないこと」を十分に認識すべきでしょう。
 

このような科学的な根拠の乏しい医療行為が自由診療として野放しになると、医療事故が起きる恐れがあり、
現在、実施されている加齢黄斑変性の臨床試験などにも影響があるかもしれません。現在、国は法律や規制を
検討しており、今後は、審査や届け出が義務づけがされる見込みです。
 

また、臨床試験では少数の患者に対して完全にオーダーメイドな臨床試験となるので、患者一人あたり
約2000万円もの高額なコストになると算定されています。((注)この金額は、患者負担額ではありません)
ただし、産業化が進むと、将来的にはコストも10分の1以下となり、保険適用による患者負担額は、
もっと安くなり、対象患者の全員が当たり前に受けられる治療法となるでしょう。
 

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