切り札はiPS細胞 ニコンが医療に本腰

切り札はiPS細胞 ニコンが医療に本腰

デジカメ不振のニコン。出遅れ医療で巻き返す

ニコンは8月6日、理化学研究所(理研)発のバイオベンチャー、日本網膜研究所に5億円を出資した。日本網膜研究所はiPS細胞(人工多能性幹細胞)を用いた難治性の網膜疾患の治療法を開発中。ニコンは同社の協力を得て、iPS細胞による再生医療で必要な検査機器などを開発する。

今年5月に発表した中期経営計画で新事業のターゲットとして健康・医療分野を据えるニコン。ただ、現状では広い意味で医療関連といえるのは、細胞や組織を観察する生物顕微鏡などわずかな製品しかなく、売上高も200億円強にとどまる。しかも、これら製品群を含むインストルメンツカンパニーは5期連続赤字と大苦戦している。

医療分野を重視するほかの精密機器メーカーははるかに先を行っている。オリンパスは世界シェア7割を誇る消化器内視鏡を中心に、医療事業が売上高の5割強を占める。

富士フイルムはデジタル化による写真フィルム市場の急縮小を受け、早くから医療事業に本腰を入れてきた。医療機器に加え、M&Aで医薬品事業も展開。再生医療ベンチャーのジャパン・ティッシュ・エンジニアリングにグループで44%出資しており、再生医療分野へも着々と布石を打っている。

それでも「将来的には事業規模として1000億円程度の売り上げを目標として進めていく」(木村眞琴社長)と、ニコンは医療分野での巻き返しに意欲を示す。

iPS細胞を発明した山中伸弥教授が所長を務める京都大学iPS細胞研究所に、細胞培養から観察・記録までを自動化した検査装置を納入した実績を持つニコン。この装置の売り上げ規模はごくわずかだが、今回の出資などを通じ、再生医療での事業拡大を狙う。

虎の子のカメラは市場急変

そもそも医療分野だけでなく、収益の多角化でニコンは完全に出遅れている。ニコンのカメラ事業依存度は売り上げで74%、営業利益は119%に達する(2012年度)。半導体露光装置や液晶露光装置でも一定の収益を稼ぐが、世界トップの蘭ASML社との差が大きいうえに、業績変動が激しく安定収益源にはなっていない。ライバル、キヤノンが複合機やプリンタなど事務機器というカメラ事業に並ぶ収益柱を持つのとは対照的だ。

虎の子のカメラ事業は、スマートフォンの普及や中国経済の成長鈍化で市場が急変している。コンパクトデジカメの全世界出荷台数は12年に前年比21.9%のマイナスとなった。13年は6月までの累計で前年同期比48%減と落ち込み幅が拡大している。これまで堅調だった一眼レフデジカメも13年1~6月は18.2%減と縮小に転じた(いずれも日本カメラ映像機器工業会)。

8月8日、ニコンは13年度の営業利益見通しを650億円(前年比140億円増)へと従来予想から200億円下方修正した。販売見通しをコンデジで前年比33%減の1150万台、収益柱である一眼レフを含むレンズ交換式も同6%減の655万台とそれぞれ従来計画から250万台、55万台引き下げたからだ。

このようなデジカメ市場の落ち込みを考えると、新たな収益柱の育成は急務となっている。難病治療の切り札として期待が集まるiPS細胞は、本業の衰退に悩む企業にとっても福音となるのか。

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