進む再生医療・細胞シート 口の粘膜から角膜再生
出所:2013-09-13 読売新聞東京都青梅市の御岳山を登る神戸市西区の北村兆美よしみさん(65)の足取りは軽かった。今年6月のこと。視力が低下していた頃は段差が分かりづらく、趣味の登山でも慎重に足を運んでいた。それが目の角膜の再生医療を受け、視界が開けた。
北村さんは1993年夏、風邪症状が悪化して熱が出たため、自宅にあった風邪薬を服用した。発疹や下痢がひどくなって入院したら、目が開かない症状が表れた。秋に退院したが、目を開くとまぶしくて両目が見えにくいという後遺症が残った。眼科を受診すると、「角膜に異常がある」と言われ、2000年、症状が悪い左目だけ角膜移植を受けた。右目の視力も落ちてきた05年、大阪大教授の西田幸二さん(51)が臨床研究として進めている「角膜の再生医療」を紹介した新聞記事を長女が見つけた。北村さんはすぐに西田さんの診察を受けると、薬の副作用などで角膜表面が濁る「スティーブンス・ジョンソン症候群」と診断された。1993年に服用した風邪薬が原因らしい。西田さんの研究は、片方の目の角膜が正常ならば、その目の細胞を培養して細胞シートを作り、濁った方の角膜に移植して視力を改善させる。両目の角膜が濁っている場合は性質が近い口の粘膜細胞を使ってシートを作る。北村さんは両目が悪いため、口の粘膜細胞を使い、右目の角膜再生医療を2006年2月に受けた。約1か月半後に退院すると、電車やバスに掲げられた行き先の表示が見えるようになった。ルーペを使って新聞の文字も読めた。今年2月には左目の再生医療も受け、視力が0・1未満から0・1に回復。両目で世界を見る生活に、「だいぶ楽になりました」と喜ぶ。
スティーブンス・ジョンソン症候群と、薬品が目に入り角膜が濁る症状の患者ら20人を対象とした臨床研究で、ほぼ全員の視力が改善した。0・01以下から0・9になり仕事に復帰した人もいる。阪大の臨床研究は、ある程度の安全性や有効性が確認された「先進医療」に認められた。また、東京大や愛媛大に細胞を空輸し、両大で同様の治療を行う研究も始めた。西田さんがかつて在籍した東北大を含め4大学病院で、細胞シートを使った角膜の再生医療を受けられる。
ただし、治療から2~3年たつと角膜が再び濁ることがあり、北村さんも昨年3月、濁った右目で2度目の再生医療を受けた。口の粘膜細胞が血管を呼び寄せ、その血管から血液成分の一つ、「血漿けっしょう」がしみ出し、角膜が濁った可能性がある。課題の解決に向けて研究が続けられている。