iPS細胞で難病研究 慶大や東大など治療薬開発へ
出所:2013-04-20iPS細胞を使って難病や希少疾患の治療法を探る研究が国内の大学で加速している。慶応義塾大学は心臓病患者のiPS細胞から心筋細胞を作製、不整脈の副作用を起こさない薬の開発に取り組む。東京大学は血液がん患者のiPS細胞を作り、治療薬を効率的に見つけ出す研究に力を入れる。効果的な薬が乏しい難病患者にとって光明を見いだせる可能性がある。
慶応義塾大学の福田恵一教授らは、心筋細胞の異常が原因で心臓の収縮時間が健康な人と違う「QT延長症候群」という心臓病の研究に取り組む。患者から白血球の一種である「Tリンパ球」を採取し、iPS細胞を作製。これから病気の状態にある心筋細胞を作り出すことに成功した。
同症候群は現時点では13種類の遺伝子のうちいずれかの変異が原因で、不整脈を起こして失神や突然死を招く恐れがある。全国で数百家系の患者がいるとされる。原因となる遺伝子のうち4種類が原因の大半を占め、これが原因で発症した患者の細胞からiPS細胞を作り、心筋細胞に変化させた。iPS細胞を使えば既存の薬で不整脈を起こすかどうかをあらかじめ調べて副作用を避けたり、不整脈を防ぐ化合物を効率的に探し出したりできる。
がんの難病でも研究が進む。東京大学の黒川峰夫教授らは、血液のがんの一種である「骨髄線維症」の患者からがん化した血液細胞を採取し、iPS細胞を作った。これから作った血液細胞はがん細胞と似た性質を持つことを確認した。
骨髄線維症は骨髄組織が固くなり本来の機能を失う病気で、患者数は全国で推定約700人。抗がん剤などで症状を抑えるだけで骨髄移植以外に根治的な治療法はない。がん化した血液細胞は採取が難しく取れても量が限られる課題があった。
研究チームは培養で大量に増やせるというiPS細胞の特長に着目。患者のiPS細胞を増やして血液細胞に再び戻すことで、研究に必要な患者の細胞数を確保できるようになり、病気の原因遺伝子を狙った新薬候補の化合物を調べる。
国内では、北海道大学が運動失調症の治療法開発や仕組みの解明に向けてiPS細胞を活用する。国立精神・神経医療研究センターは希少難治性てんかんの調査研究に取り組む。弘前大学は遺伝性貧血の診断法の確立などを目指してiPS細胞を活用していく。
(日本経済新聞)
http://www.nikkei.com/article/DGXNASGG15020_V10C13A4TJM000/