HIVウイルスと幹細胞で難病を治療できる!?

HIVウイルスと幹細胞で難病を治療できる!?

出所:2013-08-08 WIRED.jp

サン・ラファエレ=テレトン研究所の研究者たちが、幹細胞とHIVウイルスを用いた遺伝子治療の臨床実験を行っている。彼らは『サイエンス』において、異染性白質ジストロフィーやヴィスコット・アルドリッチ症候群の治療に成功していることを発表した。

エイズの原因であるHIVウイルスから派生したウイルスを用いて難病を治療すること。これが、サン・ラファエレ=テレトン遺伝子治療研究所(HSR-TIGET)の研究者たちが挑戦していることだ。『サイエンス』に掲載された論文で述べられているように、実験の開始からほぼ3年たち、やっとポジティヴな結果が出ようとしている。

研究者たちは、2つの希少な幼児期の遺伝病、異染性白質ジストロフィーとヴィスコット・アルドリッチ症候群に集中して研究を行った。患者たちには、なんとHIVウイルスから派生したウイルスをヴェクター(運搬役)として用いて、欠陥のある遺伝子を修正した幹細胞を投与した。テストの第1段階の結果は、将来に十分な期待がもてるものだった。

まず異染性白質ジストロフィー(Metachromatic Leukodystrophy: MLD)は、ARSAというスルファミドのような毒性のある物質を排出する役割をもつ酵素の欠損に起因する遺伝性の神経変性疾患だ。スルファミドが体内で過剰になると、神経系に蓄積して、次第に回復不能なかたちで神経の絶縁体であるミエリンにダメージを与える傾向がある。

これにより、患者は次第に認知能力や運動能力を失っていくことになる。子どもたちは次第に動いたり、自分で食事をしたり、あるいは話したり、コミュニケーションを取ったりすることができなくなっていく。現在、この病気にかかるのは62.5万人に1人の割合だ。

ヴィスコット・アルドリッチ症候群(WAS)は、非常に珍しい幼児期の免疫不全で、これもまた遺伝性のものだ。男児の病気で、湿疹と感染症に頻繁にかかることで明らかになる。この病気に感染した患者は、血小板の数が少なく、大きさも通常より小さくなる。このため、出血が致命的になる可能性がある。

現在のところ、WASにかかるのは100万人に1人の割合だ。原因は、血液細胞の中にあるタンパク質、WASP(ヴィスコット・アルドリッチ症候群タンパク)のコード化を受けもっている同名の遺伝子の異常だ。現在、唯一の治療法は骨髄移植だが、リスクがあるだけでなく、適合性のあるドナーを見つけることが困難だ。

研究者たちは、実験の対象となった患者にHIVウイルスの変種を運搬役として遺伝子を修正した幹細胞を接種した。これは、1996年にルイジ・ナルディーニ(現HSR-TIGETのトップ)が考案した技術だ。彼は最も恐れられているウイルスのひとつが適切につくり替えられることで、細胞の内部に遺伝子を届けるのに非常に効果的となりうることを見抜いた。

このようにして得られた運搬役はレンチウイルスと呼ばれており、自身の内部にはHIVの元々の遺伝子シークエンスのうち10%しか残していない。このウイルスによって、非常に効果的に患者の骨髄から採取された造血幹細胞(つまり血液のあらゆる構成要素に分化する細胞)の修正を行うことが可能となった。

一度体内に入ると、こうした細胞は分裂し、欠落しているタンパク質を十分な量つくり出した(MLDの場合)。あるいは、病気にかかっているタンパク質に取って代わったのである(WASの場合)。こうして、著しい治療効果が得られた。

「臨床試験が始まってから3年経ち、最初の患者たちから得られた結果は、非常に励みになるものでした」とナルディーニはコメントした。「治療は安全であるだけでなく、効果的で、これら難病治療の歴史を変えるものです」。

研究は、全部で16人の患者に対して行われた(10人がMLD、6人がWAS)。なかでも、「MLDに感染した3人の子ども(レバノン、アメリカ、エジプトの出身)には、治療を始めたときにすでに現れていたいくつかの異常を除けば、いまのところこの病気の明白な症状は現れていません。彼らの年長の兄弟がすでに明白な病気の兆候を示していた年齢に達しているにもかかわらずです。現在3人の患者はみな、年齢にふさわしい普通の生活を送っていて、運動能力や認知能力についても健全に発達しています」と、科学者たちは語った。

一方、WASに関しては、「HSR-TIGETで治療を受けた最初の3人の子どもは、免疫システムが完全に回復したことが明らかになっています。彼らはもはや、治療する前にいつも苦しんでいたウイルスやバクテリアによる重い感染症に簡単にかかることはなくなりました。子どもたちは、同年代の子どもたちと問題なく普通に接することができ、1人目の子どもは学校に通い始めました」。

要するに、胸を張れる結果だったのだ。いまも実験は続けられており、それぞれの診療研究の結論を待つのみである。発表は2016年に予定されていて、これは参加した最後の患者たちの治療から3年が過ぎた年となる。

TEXT BY SANDRO IANNACCONE
TRANSLATION BY TAKESHI OTOSHI

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