iPS:国際バンク設立へ…日米英など備蓄細胞を融通
出所:2014-01-16 毎日新聞再生医療などに使う拒絶反応を起こしにくい人工多能性幹細胞(iPS細胞)の各国の備蓄状況を一括管理し、国境を超えて使用できるようにする「国際iPS細胞バンク」計画が、15日明らかになった。日本、米国、英国、フランス、オーストラリアなどが参加する見通しで、具体的な実施方法を検討する委員会が年内にも発足する。実現すればiPS細胞の医療応用が大きく進展しそうだ。
呼び掛け人で、クローン羊ドリーの生みの親、イアン・ウィルムット・英エディンバラ大再生医療センター名誉教授はこの日、大阪府吹田市内で毎日新聞の取材に応じ、「バンクは革新的な試みで、再生医療にとって重要なステップとなる」と述べた。
計画によると、各国の研究機関などが、患者へ移植しても拒絶反応を起こしにくいタイプの白血球型(HLA型)の提供者からiPS細胞を作製・備蓄し、それらの細胞のデータを「国際バンク」が一括管理し、必要なタイプのiPS細胞を検索したり取り寄せたりできるようにする。昨年10月、英国で研究者や各国の規制当局関係者ら約30人が最初の会合を開き、その後も議論を重ねている。日本は、再生医療の研究資金の配分などを担う独立行政法人「科学技術振興機構」が窓口となる。
国際バンクは昨年10月、ウィルムット名誉教授のほか、iPS細胞を開発した山中伸弥・京都大iPS細胞研究所長らが著者に名を連ねた論文で提案された。ウィルムット名誉教授は「拒絶反応を起こしにくいタイプのiPS細胞を400人分程度集めれば、世界のすべての人が治療で使えるようになる」と語る。
◇解説 品質の統一不可欠 資金調達が課題
人工多能性幹細胞(iPS細胞)は患者自身の細胞から作製でき、さまざまな臓器や組織の細胞に変化させられるため、再生医療への応用が期待される。しかし、患者自身の細胞から、その都度作製するのは費用や時間がかかり、現実的ではない。このため、事前に拒絶反応を起こしにくい白血球型(HLA型)を持つ人の細胞から作った高品質のiPS細胞を備蓄し、治療などに活用するのが「細胞バンク」の狙いだ。
日本では京都大が「iPS細胞ストック事業」を始め、昨年12月に1号目の細胞を作製したと発表した。今回明らかになった国際バンク計画は、各国の細胞備蓄をネットワークで結び、必要な細胞を融通しあう。同じ型のiPS細胞を重複して作らないようにすれば、費用などを削減できる。実現の鍵を握るのが、備蓄するiPS細胞の作製方法や品質管理を統一できるかだ。現状では、その国の医薬品などの品質管理基準に合致しなければ、他国の細胞を医療用に使えない。このため、評価基準の統一が議論されているという。
一方、すでに多様なiPS細胞作製方法が開発され、特許も絡む。国の「再生医療実現拠点ネットワークプログラム」のプログラムオフィサーを務める赤澤智宏・東京医科歯科大教授は「こうした議論で、iPS細胞の開発国である日本が存在感を示すことが大事だ」と話す。国際バンクの運営には多額の資金がかかるため、資金調達の方法も今後の課題になりそうだ。