【星】iPS研究の山中教授講演、科技庁が招へい
出所:2013-06-072012年にノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥・京都大学教授が2日、中部ブオナビスタのバイオ研究施設バイオポリスでiPS細胞(人工多能性幹細胞)の最近の研究成果について講演した。海外の著名研究者を招聘(しょうへい)する科学技術研究庁(ASTAR)の「著名人訪問プログラム(DVP)」の一環。会場となった約480席の講堂は満席となったため、施設内の別室でもライブ中継され地元研究者らの関心の高さがうかがえた。
講演では、iPS細胞を使った再生医療応用プロジェクトを中心に説明。これまでにiPS細胞から血小板や赤血球などの血液細胞に分化誘導することに成功しており、これを血液の病気に応用して骨髄移植治療などに役立てたいと話した。「現在はマウス実験の段階だが、今後4~5年以内にヒトの臨床実験に入る」考えという。
また人工的に作られる幹細胞の代表であるiPS細胞とES細胞(胚性幹細胞)を比べると、胚から作られるES細胞と異なり、iPS細胞は皮膚など体の細胞から作られるため倫理問題や拒絶反応がないことが特長と指摘。山中教授が所長を務める京大iPS細胞研究所では、治療に有効なiPS細胞を保管する「医療用iPS細胞ストック」構築について、昨年11月に京大病院倫理委員会から承認を取得しており、「再生医療の臨床研究に利用できる体制を作りたい」と述べた。ただ移植の適合性は免疫の型(HLA)が一致するかどうかで決まるため、拒絶反応の起きにくいHLAを持つ献血者からより多くの血液を採取して、これを基にiPS細胞を作成する。「第1段階として日本人の人口の30~50%をカバーする10種類のHLA型のiPS細胞を備蓄し、第2段階として23年までには日本の人口に対応できる100種類のiPS細胞を作る」という。
最後に山中教授は「近い将来、iPS細胞技術を活用してより多くの難治性疾患患者を救いたい」と述べ、講演を締めくくった。講演に参加したバイオ医学関連企業の研究員は「現在、幹細胞研究を手掛けており、非常に役に立った」と話していた。
利根川氏も講演
ASTARではこのほか、傘下の研究機関の科学者らと山中教授の意見交換会も開催。シンガポールは幹細胞分野で世界中の研究開発(R&D)ハブとなることを目指しており、こうした交流を通じて国内の幹細胞作製技術や腫瘍化抑制研究を推進する狙いがある。
DVPでは01年の開始以来、海外から70人以上を招聘している。1987年にノーベル医学生理学賞を受賞した利根川進・理化学研究所脳科学総合研究センター長は2006年に講演した。このほか加トロント大学のデイビッド・ネイラー学長、欧州分子生物学研究所のイアン・マタイ所長などがシンガポールを訪れている。
2013年4月3日 NNA