オーガンテクノロジーズ 唾液腺の再生および器官再生による涙腺機能の回復を実証
出所:2013-10-10 QLifePro株式会社オーガンテクノロジーズ中心の次世代再生医療研究成果
株式会社オーガンテクノロジーズは10月2日、同社の取締役で東京理科大学 総合研究機構教授の辻孝氏が中心となって推進してきた、2つの次世代再生医療としての器官再生に関する研究成果を発表した。研究の詳細は科学誌「Nature Communications」に掲載されている。
これまでにも辻孝氏らの研究チームからは、臓器置換再生医療としての歯、毛の再生に関する研究成果が発表され、2007年のNature Methods誌、2009年8月の米国科学アカデミー紀要などに掲載されて注目を集めた。今回はそれに続く、唾液腺の再生と涙腺の再生に関する研究成果の発表である。
(画像はプレスリリースより)
神経刺激で唾液分泌可能な唾液腺を再生
唾液腺の再生に関する研究は、オーガンテクノロジーズ 小川美帆研究員と辻研究室の共同で実施されたもので、口腔乾燥症(ドライマウス)に対する根治的新たな治療法の開発として、器官再生医療による唾液腺再生を目指した。
研究チームは、胎仔由来の唾液腺幹細胞を取得し、すでに開発した「器官原基法」によって、唾液腺の主な2種、顎下腺と舌下腺のそれぞれの唾液腺原基を作製、生体外で培養を行った。すると、いずれも分泌腺特有の分岐構造を形成し、唾液腺を再生できる可能性が示されたという。そこで、続いて再生唾液腺原基にデバイスを挿し、導管と再生唾液腺原基の上皮組織が接続するように、欠損部位に移植を行った。30日後、再生唾液腺が正常に接続されているかどうか、色素を口腔側の導管から逆流させてみたところ、色素が漏れることなく再生唾液腺内部まで到達したため、成体ホストの導管と再生唾液腺が接続し、唾液を口腔内に分泌していると考えられた。
唾液腺が唾液を分泌するためには、さらに筋上皮細胞が腺房細胞の周囲に配され、筋収縮をさせる神経が接続していなければならない。そこで、再生唾液腺で組織学的解析を行ったところ、顎下腺・舌下腺のそれぞれで、腺房細胞構造の形成、腺房細胞周囲の筋上皮細胞、その周囲の神経線維の侵入が確認され、唾液を分泌できる状態であることが示された。
そして、実際に再生唾液腺が食物の刺激で唾液を分泌する、機能的唾液腺であるかどうか確認するため、移植したマウスの口の中に酸味の刺激を与えて実験したところ、酸味刺激を与えた場合に唾液分泌量の有意な増加がみられ、また分泌された唾液にアミラーゼが含まれていたため、機能的唾液腺であると確認され、唾液腺の再生が可能であることが実証された。移植したマウスでは、一時的に体重の減少が認められるものの、その後体重は回復し、100%生存したという。
(画像はプレスリリースより)
涙腺の再生
涙腺の再生の研究は、慶應義塾大学医学部 眼科学教室 坪田一男教授、平山雅敏助教らと共同で、マウス胎仔の涙腺原基由来の上皮・間葉細胞から器官原基法により涙腺のもととなる再生涙腺原基を作製して、涙腺機能が障害されたモデルへ移植することにより実施した。さらに、この研究では眼表面に脂質を分泌するハーダー腺の再生が可能であるかどうかも同様に解析した。
再生涙腺原基は、成長して分泌腺特有の分岐構造を認められるものとなったことから、作製が可能であることが判明し、マウスに移植したところ、高い頻度で生着させることができたという。レシピエント導管から色素を注入しても、漏れることなく再生涙腺に到達し、連結が確認できている。これはマウスハーダー腺原基においても同様であった。
立体組織構造においても、効率よく涙液を分泌する涙腺の組織に必要な構造が再現されており、神経線維侵入もみられ、再生涙腺・ハーダー腺の腺房は、それぞれラクトフェリン、脂質を含んでいたことから、分泌物を作ることが可能であることが示された。
刺激に応答するものであるかどうか、冷温刺激で確認したところ、再生涙腺・ハーダー腺はそれぞれ透明な涙液、白く濁った涙液を分泌し、分泌量は正常涙腺と同等に増加した。また、再生ハーダー腺からの涙液には、脂質が多く含まれており、これらから、再生涙腺がレシピエントの中枢神経システムとの接続を介した分泌機能を再生できていると示されたという。
世界に先駆ける研究成果、臨床応用化に向け期待
この機能的な唾液腺の再生と、器官再生による涙腺機能の回復が可能であることの実証という2つの研究成果は、次世代の再生医療として、さまざまな分野で進む基礎研究の、世界に先駆ける研究成果であり、今後の臨床応用化にも期待が寄せられている。