腎臓再生医療の扉が開いた! -熊本大、ヒトiPS細胞から3次元腎臓組織を作成

腎臓再生医療の扉が開いた! -熊本大、ヒトiPS細胞から3次元腎臓組織を作成

出所:2013-12-13 マイナビ

熊本大学は12月13日、マウスES細胞およびヒトiPS細胞から糸球体と尿細管を伴った3次元の腎臓組織を作成することに成功したと発表した。

同成果は、同大発生医学研究所 腎臓発生分野の太口敦博(医学教育部博士課程 大学院生)、同 西中村隆一 教授らによるもの。詳細は科学雑誌「Cell Stem Cell」オンライン版に掲載された。

腎不全による人工透析患者数は増加傾向にあり、医療費増大の一因となっている。しかし、腎移植の機会は限られていることもあり、再生医療による治療への期待が高まっている。

ヒトの体内の臓器はそれぞれ複数の種類の細胞が集まってできているが、そのほとんどの細胞は胎児期に多能性を持つ「前駆細胞」が形成され、成長に伴う増殖、分化(成熟)を経て臓器を形成しており、臓器の再生を実現するためには、各臓器ごとの前駆細胞の作成が必要となる。これまでに網膜、心臓、すい臓、軟骨の前駆細胞の作成が報告されており、臨床試験に向けて、さらに大人の細胞を同じような機能を有した細胞をどうやって成熟させていくか、という研究が進められるようになっている。

しかし、腎臓における当該する前駆細胞「腎臓前駆細胞」の作成においては、その発生過程そのものが未解明であったことから、その作成が難しかった。

そこで今回、研究グループは、腎臓前駆細胞の発生過程の解析を実施した。具体的には、”どのような細胞”に、”どの成長因子”が働くことで目的の細胞(腎臓前駆細胞)に向かって分化(成熟)が起こるのか、ということを解明することを目指し、将来腎臓前駆細胞になる予定の細胞とされている「中間中胚葉」が緑に光る遺伝子改変マウス(Osr1-GFPノックインマウス)を作成し、中間中胚葉細胞にさまざまな成長因子を加えて腎臓前駆細胞の作成を試みた。しかし、いずれもうまくいかなかったが、その代わり、初期段階でOsr1を発現しない細胞群の中に腎臓前駆細胞の元になる細胞が存在している可能性が示めされた。

これまで胎児はごく初期の段階で全身のおおよその形が形成され、それがそのまま大きく成長していくものと考えられてきた。しかし近年の研究では、胴体の下半身は頭部・胸部ができ上がった後に、下半身専用の細胞「体軸幹細胞」から作られるという説が提唱されるようになってきた。

胎児は上半身から先に形作られ、下半身の細胞は体軸幹細胞を経て形成される

そこで、実際にこの体軸幹細胞を含む領域に発現する遺伝子改変マウス(T-GFPノックインマウス)を用いて解析した結果、腎臓前駆細胞は下半身専用の細胞、「体軸幹細胞」から発生することが判明したという。

腎臓前駆細胞の元になる細胞の同定により、同細胞を実際にマウスの胎児から回収し、試験管内で「どのような成長因子」を加えれば腎臓前駆細胞になるかの検討を行った結果、3つのステップに分けて、計5種類の成長因子(アクチビン、Bmp、Wnt、レチノイン酸、Fgf)をそれぞれ組み合わせと濃度を適正化して加えると効率的に腎臓前駆細胞を試験管内で作成できることが判明したという。

腎臓は下半身を形成する細胞、「体軸幹細胞」を経て形成される

この結果を受けて、さらにマウスES細胞を用いて、どのような成長因子を加えれば腎臓前駆細胞の元となる体軸幹細胞が作成できるかを検討したところ、2つのステップで誘導できることを確認。実際に同細胞に、上述のの成長因子を加えたところ、計5ステップを経て腎臓前駆細胞ができることが確認されたとする。

試験管内での腎臓作成手順のあらまし

さらに研究グループではES細胞から前駆細胞ができたことを受け、腎臓が機能するために必要な糸球体と尿細管という3次元構造の再構築を挑戦。その結果、これまでにマウス胎児の腎臓前駆細胞から3次元構造を作成する際に用いられていた方法(Wntを分泌する細胞、もしくは胎児の脊髄と一緒に培養する)で糸球体と尿細管の両方が形成されることを確認。これにより、マウス胎児に存在する腎臓前駆細胞と同等の能力を持つ細胞がマウスES細胞から作成できたことが確認された。加えて、ヒトiPS細胞でも同様の方法で、腎臓前駆細胞ならびに3次元の腎臓組織の作成にも挑戦した結果、見事に作成に成功したという。

左上:マウスES細胞から作成した腎臓組織、右上:ヒトiPS細胞から作成した腎臓組織、左下:マウスES細胞から作成した糸球体、右下:ヒトiPS細胞から作成した糸球体

なお、研究グループでは、今回の成果は再生組織を移植することで血管を含む3次元構造までを形成することに成功したものだが、実際にそこから尿を産生する程度に機能的に成熟させるには至っていないとしており、今後はこの成熟化をいかにして試験管内もしくは移植組織で実現するか、また尿が産生されたとしてその尿を排出するための組織(尿管芽)をどのようにして作成するかといった課題の解決を目指したいとしている。また、それらが実現できたとしても、そこから大人の体を維持するのに必要な大きさの腎臓にまでどのように大きく成長させるのかを含めて相応の時間が必要になってくることが考えられるとはしながらも、今回の知見を活用していくことで、腎臓の再生医療研究や腎臓病の原因解明、新薬の開発などが進んでいくことが期待されるとコメントしている。

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