小さな一歩だが、人類にとっては大きな飛躍だ

2007年11月21日、世界中の新聞の一面にはiPS細胞発見のニュースが掲載されました。その数日後、幸運なことに、私は京都の某ホテルでプレス発表会を兼ねたシンポジウムに参加するチャンスに恵まれた。私は以前、研究者をしていたこともあり、会場に一歩入ると、その会場の熱気に圧倒され、直ぐにこの研究は不可能を可能にする研究に違いないと直感しました。



それ以来、多くの研究者によって再生医療に関する基礎研究が積み重ねられ、地道に着実に進んできました。但し、実際に実用化されるためには臨床研究というプロセスは避けて通れません。まさに患者は、一日も早い実用化の日を待ちわびているのであり、臨床研究の開始を待ちわびているのです。これまでの新聞報道により、加齢黄斑変性に対する臨床研究の許認可がおりることは秒読み段階でしたが、以下の報道にもあるように、本日ついに黄斑変性患者6人に対して臨床研究が開始される運びとなりました。

世界初iPS臨床研究実施を了承…厚労省審査委

出所:2013-06-26 読売新聞

厚生労働省の「ヒト幹細胞臨床研究に関する審査委員会」(委員長=永井良三・自治医科大学長)は26日、理化学研究所などが申請していたiPS細胞(人工多能性幹細胞)で目の難病「加齢黄斑変性」を治療する臨床研究の実施を条件付きで了承した

厚生科学審議会科学技術部会や厚労相の承認を経て、来年夏にも治療が始まる。山中伸弥・京都大教授が2007年に人のiPS細胞作製を発表してから約6年で、iPS細胞を使った世界初の再生医療の実施に向け、大きく前進した。

対象となるのは、50歳以上で薬など既存の治療法が効かない患者6人。理研の高橋政代・プロジェクトリーダーらは、患者の皮膚の細胞からiPS細胞を作り、網膜の細胞に変化させてシート状に加工したものを目に移植する。4年間経過を観察して、安全性と有効性を確かめる。先端医療センター(神戸市)とともに2月末、厚労省に臨床研究の承認を申請した。

自分もこの日を待ちわびていましたが、それ以上に(特に加齢黄斑変性の)患者さんは、この日をどんなに待ちわびていたでしょうか。もちろん、まだ臨床研究の段階であり、わずかな患者に対して安全性の試験を行うにすぎません。また、臨床研究の期間は約5年間もあるので今回の報道の多さや患者さんの大きな期待に反し、これから始まる本格的な臨床研究の道のりは果てしなく長いことも十分に認識すべきでしょう。



約40年前に月面に降り立ったアームストロングが、『これは一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては大きな飛躍だ』といった話は有名ですが、今日だけは静かにその月面での有名なセリフを噛みしめたいと思います。
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