耳の再生に活用 iPS細胞+3Dプリンター 京大・東大
出所:2013-07-28京都大学iPS細胞研究所と東京大学が、人体で最も複雑な形状とされる耳の軟骨の型を3Dプリンターで作製し、そこに人工多能性幹細胞(iPS細胞)を注入して耳を再生する研究を今秋から始めることが27日、分かった。先天性の疾患で片耳の発育が不全な患者らに移植するもので、10年後の実用化を目指す。iPSと3Dプリンターという両最先端技術を再生医療に活用するのは世界初。現在は患者本人の別の骨を移植するのが一般的だが、実用化すれば、大幅な負担軽減につながる。
研究は科学技術振興機構の助成を受け、京大iPS細胞研の妻木範行教授(骨・軟骨代謝学)と東大の高戸毅教授(外科学)らが担当。生まれつき片耳が小さい「小耳症(しょうしょう)」の患者を対象にした臨床研究の実施などを10年間の目標に据える。
これまで小耳症の移植手術は、患者本人の肋骨(ろっこつ)の軟骨部分を取り出し、移植用の骨を作製していたが、耳の軟骨は輪郭が複雑で細部まで再現するのは不可能だった。また、肋骨の変形が生じる恐れもあった。
今回の研究の特徴は、多様な立体物を造形でき、企業だけでなく、医療分野での活用も進む3Dプリンターを採用していることだ。
臨床研究では、患者の正常な片耳をCT(コンピューター断層撮影装置)で撮影し、軟骨のデータを3Dプリンターに取り込む。その後、合成素材(ポリ乳酸ポリマー)を材料に、へこみや突起など細部まで再現した耳の軟骨の型を3Dプリンターで作製。完成した型に、iPS細胞で作製した軟骨細胞を流し込んで耳を再生し、復元が必要な反対側に移植するという。
iPS細胞をめぐっては今月19日に国が世界初の臨床研究を承認し、再生医療への期待が高まっている。ただ、立体的な体の部位や臓器を再生させるには、体の一部として長く動かしても支障がないよう細部まで再現した「型」を元に臓器などを復元する必要がある。
妻木教授は「耳や臓器などを再生するiPS細胞を実用化するため、3Dプリンターの活用は今後増える」と話している。
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【用語解説】3Dプリンターデータを取り込むだけで、立体物を短時間で造形できる装置。自動車部品、マンションの模型やフィギュアなど多様な立体物を量産できる。