iPSで治療薬研究 長良医療センターが着手
出所:2013-08-25 岐阜新聞岐阜市長良の国立病院機構長良医療センターは、さまざまな細胞に成長できる人工多機能性幹細胞(iPS細胞)を使った、筋ジストロフィーや脊髄性筋萎縮症(SMA)などの遺伝性の神経筋疾患の原因究明と治療薬開発を目指す研究に着手した。iPS細胞による難病の治療薬開発を試みる研究は県内で初めて。
臨床研究部長の金子英雄医師(53)は「いまだ難病の有効な治療薬が確立されていない中、iPS細胞を利用した研究が遠い存在ではなく、通院や入院している身近な病院の中で行われていることは、患者の希望につながる」と話している。
4月にiPS細胞の培養室を備えた臨床研究棟が完成。院内の審査を経て7月から本格的に、患者由来の皮膚の線維芽細胞からiPS細胞の作製を始めた。研究は金子医師のほか、今春まで京都大学iPS細胞研究所の特任研究員だった小児科医の舩戸道徳神経・筋疾患治療研究室長(39)が行っている。
筋ジストロフィー、SMAは、遺伝子の異常により筋肉が萎縮していく難病。重症の場合は呼吸不全などで死に至る。しかし、進行を遅らせる対処しかないのが現状。同センターには、筋ジストロフィー、SMAなど神経筋疾患の患者が多く通院、入院し、リハビリなどの治療を受けている。
国内の大学や研究機関でも、さまざまな細胞に成長できるiPS細胞の利点を生かし、原因不明の難病の仕組みを解析し、治療薬開発につなげる研究は行われている。ただ、iPS細胞から安定した筋肉細胞や神経細胞、血液細胞に分化誘導する技術は開発途中で、治療薬開発までには至っていない。
同センターでは今後、患者由来のiPS細胞を分化誘導した細胞を使った治療薬の開発研究も始める。比較検討のため健常なiPS細胞も培養する。iPS細胞は筋肉細胞や神経細胞へと分化誘導し、筋ジストロフィー、SMA患者特有の筋肉や神経の異常がどのように起きるのかさらに解析を進める。膨大な治療薬パターンの中から、どの薬を使うことで異常な筋肉や神経が修復されるかを研究し、治療薬の候補となる物質も探る。
舩戸医師は「動物実験とは異なり、患者由来のiPS細胞であれば治療薬開発にかかる時間の短縮も期待できる。一刻も早く患者に治療薬を届けられるよう頑張りたい」と話している。