iPS細胞から赤血球、理研が量産技術 輸血・貧血向け製剤
出所:2013-08-27 日経新聞電子版あらゆる組織や細胞に育つiPS細胞を、手術や貧血治療で使う血液成分の量産に生かす研究が相次いでいる。将来は輸血が必要な高齢者が増え、若者の献血離れも進むと予想され、血液製剤が不足する恐れがある。感染症の心配のない血液製剤を求める人もいる。どんな細胞にもなるiPS細胞の性質は安全な赤血球や血小板を人工製造し、安定供給につながる。
iPS細胞は再生医療の臨床研究が8月に目の難病で始まった。医薬品の生産でも新たな産業応用に道を開きそうだ。理化学研究所の中村幸夫細胞材料開発室長らは、人間のiPS細胞から赤血球を大量に作る基盤技術を開発した。赤血球は血液中で酸素を運び、不足すると貧血になる。それ自体は増えず、「赤血球前駆細胞」という細胞が次々と赤血球に生まれ変わる。研究チームは、半永久的に増え続ける「赤血球前駆細胞」をiPS細胞から作った。まず遺伝子工学の手法でiPS細胞を改良した。赤血球の生産を促す物質「エリスロポエチン」などを使って培養し、成熟した赤血球を作る技術を確立した。
研究チームはこれまでに、同じ万能細胞の仲間である胚性幹細胞(ES細胞)から前駆細胞を作る実験にマウスで成功している。iPS細胞を使った今回、その時の培養法も参考にした。200ミリリットルの血液製剤を作るには約1兆個の赤血球がいるので、大量生産の技術が求められていた。今のところ前駆細胞が赤血球に育つ確率は約25%にとどまっており、5年以上かけて100%に近づける。自治医科大学の花園豊教授らは年内にも、ヒトのiPS細胞を使ってヒツジの体内でヒトの血液成分を作る実験に乗り出す。動物の体を借りるので、未知の感染症リスクや輸血を受ける側の心理的な抵抗感が課題だが、大量生産に向く方法と考えている。
ヒトの血液からiPS細胞を作製し、血液を作る「造血幹細胞」になる前段階の細胞に成長させる。これを妊娠約50日目のヒツジの胎児に注射で投与、体内で造血幹細胞に育ててもらう。動物の受精卵を操作して人の臓器を作るような研究は国の指針が禁じているが、胎児の利用は規制されていないという。3年後に体内で造血幹細胞を作る技術を確立、5年後には赤血球や血小板を安定して作れるようにする。すでに花園教授らはヒトの造血幹細胞をヒツジに移植し、体内でヒトの血液を作る実験に成功している。