iPS細胞作製の効率100倍に 山中教授ら新手法、がん化リスクも軽減
出所:2013-11-15 MSN産経ニュースさまざまな臓器の細胞に変化できるiPS細胞(人工多能性幹細胞)の開発者である京都大iPS細胞研究所長の山中伸弥教授らのグループが、人間の細胞にある特定の「マイクロRNA」の働きを抑えることで、iPS細胞の作製効率を10~100倍向上させる新手法を、米グラッドストーン研究所との共同研究で発見したことが分かった。新手法は、細胞がん化のリスクを減らす効果もあるという。研究成果が米科学誌セル・ステム・セル(電子版)に15日掲載された。
マイクロRNAは、DNAの指示でタンパク質合成に関わる遺伝物質「リボ核酸(RNA)」の一種。細胞の初期化や分化に影響を与えるが、詳しい働きなどは分かっていなかった。グラッドストーン研究所の上席研究員でもある山中教授のチームは、人間の皮膚細胞を使って実験。皮膚細胞からiPS細胞を作る際、従来使ってきた4つの遺伝子とともに、マイクロRNAの一種「let7」の働きを抑える別のRNAなどを加えたところ、iPS細胞の作製効率が従来比で10~100倍向上した。let7が細胞初期化を促すタンパク質「LIN41」の働きを妨げていることを解明。新手法では、iPS細胞作製で課題となる細胞がん化の要因にもなる遺伝子を使わなくても、効率を維持できた。
山中伸弥教授らの今回の研究は、細胞内の遺伝物質の一種、マイクロRNAの働きを抑えるという比較的簡単な方法で、皮膚細胞からiPS細胞を作製する効率を飛躍的に向上させられたという点で画期的だ。研究に参加したグラッドストーン研究所の林洋平研究員は「安全性を検証し、さらにメカニズムの解明を進めたい」と話す。
iPS細胞をめぐっては再生医療などの分野で一日も早い実用化が待たれているが、幅広く使用できるようにするためには、安全性やコスト、治療にかかる時間など、高いハードルが立ちはだかっている。iPS細胞の作製効率の向上は、コストの低減につながる。今回の研究で、細胞がん化の原因になる遺伝子を加えなくても効率が維持できたことは大きく、安全性も高まった。マイクロRNAについては、細胞の初期化や分化に何らかの関与をしていることは分かっていたが、詳しい実態はこれまで謎だった。今回、マイクロRNAの一種「let7」が細胞の初期化を阻害している構図が判明したことも、iPS細胞の基礎研究には大きな一歩だ。
今後、マイクロRNAとiPS細胞との関係について詳細な解析が進むとみられ、実用化に向けた研究の加速が期待される。