咽頭と肺をつなぐ「気管」の再生医療の研究は複雑な組織構造を必要としないため、脱細胞化したヒト気管に気管支上皮細胞と骨髄由来間葉系幹細胞を移植して作成されたグラフト(起動の新たなバイパス)を、気管支軟化症の患者に対して移植する再生医療技術を応用した臨床研究が進められてきた(41)Gonfiotti A, Jaus MO, Barale D, et al. The first tissue-engineered airway transplantation: 5-year follow-up results. Lancet 2014; 383: 238-244.)が、今のところ、「肺」そのものの再生医療の臨床的な研究は存在せず、確立された再生医療の治療法はない。そのため、進行性で重篤な肺疾患に対する最終治療手段は肺移植が選択されている状況となっている。
また、慢性進行性の肺疾患である「慢性閉塞性肺疾患(COPD)」は、厚生労働省の統計によると年間の死亡者数は15,686人(2016年)とされ、喫煙開始年齢が若年化している日本では、今後さらに患者数が増加することが懸念されている(40歳以上のCOPD有病率は8.5%、患者数は530万人だと推計されている(Fukuchi Y, Nishimura M, Ichinose M, et al. COPD in Japan : the Nippon COPD Epidemiology Study. Respirology 2004 ; 9 : 458―465.))。慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、20年以上の長期間の喫煙により発症する病気とされ、非可逆性の肺胞破壊が起こることが主な原因だと考えられている。現在は吸入薬などの対症療法しかなく、根本的な治療法の開発が重要な研究テーマとなっている。