京大「肺胞」を効率よく作成する再生医療の新技術を開発

京都大学の研究チームは、ヒトのiPS細胞から微小な肺の組織「肺胞」を効率よく作る技術を開発した。「肺胞」とは、肺の中で気管支が枝分かれを繰り返し、その末端部分が数億個のブドウの房のような形状をした袋状の組織である。「肺胞」は、肺の容積の85%を占め、成人の「肺胞」の表面積は約100平方メートルもの学校の教室くらいの表面積を持ち、呼吸による二酸化炭素と酸素の交換(ガス交換)が行う重要な役割を担っている。
 
lung
出所:小林製薬HPより(http://www.seihaito.jp/structure/lung.html)


 
咽頭と肺をつなぐ「気管」の再生医療の研究は複雑な組織構造を必要としないため、脱細胞化したヒト気管に気管支上皮細胞と骨髄由来間葉系幹細胞を移植して作成されたグラフト(起動の新たなバイパス)を、気管支軟化症の患者に対して移植する再生医療技術を応用した臨床研究が進められてきた(41)Gonfiotti A, Jaus MO, Barale D, et al. The first tissue-engineered airway transplantation: 5-year follow-up results. Lancet 2014; 383: 238-244.)が、今のところ、「肺」そのものの再生医療の臨床的な研究は存在せず、確立された再生医療の治療法はない。そのため、進行性で重篤な肺疾患に対する最終治療手段は肺移植が選択されている状況となっている。
 

また、慢性進行性の肺疾患である「慢性閉塞性肺疾患(COPD)」は、厚生労働省の統計によると年間の死亡者数は15,686人(2016年)とされ、喫煙開始年齢が若年化している日本では、今後さらに患者数が増加することが懸念されている(40歳以上のCOPD有病率は8.5%、患者数は530万人だと推計されている(Fukuchi Y, Nishimura M, Ichinose M, et al. COPD in Japan : the Nippon COPD Epidemiology Study. Respirology 2004 ; 9 : 458―465.))。慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、20年以上の長期間の喫煙により発症する病気とされ、非可逆性の肺胞破壊が起こることが主な原因だと考えられている。現在は吸入薬などの対症療法しかなく、根本的な治療法の開発が重要な研究テーマとなっている。

京大、iPSから肺組織 効率よく作製

出所:2017-11-19 日経新聞社

京都大学 後藤慎平特定准教授らは、ヒトのiPS細胞から微小な肺の組織「肺胞」を効率よく作る技術を開発した。iPS細胞に特定のたんぱく質などを加えて成長させる。肺を狙った新薬の開発や再生医療に役立つ可能性がある。

これまでの「肺胞」に関する研究は、iPS細胞から「肺胞」を効率よく作成できる成功確率は10%前後と低く、安定的に「肺胞」の細胞を増やすことが大きな課題であった。しかし、同研究チームは、肺胞の細胞になる直前に特殊なたんぱく質や化合物を加えて約1週間培養した結果、約50%もの高効率で「肺胞」を作ることに成功した。さらには、肺炎を引き起こす既存薬を培養した「肺胞」の組織に加えると、細胞内に脂質が集まる異常がみられたため、薬の効き目や副作用を調べる創薬研究用途の研究に応用できる可能性も示されたことは非常に意義の大きい研究成果である。
 
iPS細胞の立体的な細胞培養が難しかったため、他臓器比べてやや遅れをとっていた肺に関する再生医療研究であったが、2014年の京都大学の2型肺胞上皮細胞の作成を皮切りに、着実に研究成果をだしており、間質性肺炎や肺気腫などの肺疾患の病態解明や治療薬の開発が期待される。
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