脊髄損傷治療に光 -新大准教授らが神経再生法を開発
出所:2013-11-25 新潟日報まだ根本的な治療法がない脊髄損傷治療で、損傷部分の神経再生を阻むコンドロイチン硫酸の発生を抑える方法を、新潟大大学院医歯学総合研究科の武内恒成准教授(50)らのグループ(代表・五十嵐道弘同研究科教授)が開発し、22日までに英科学誌ネイチャーコミュニケーションズ電子版で発表した。武内准教授は「人工多能性幹細胞(iPS細胞)の移植と組み合わせることで、脊髄損傷治療に光明が見える発見になった」と話した。
交通事故やスポーツなどで首を骨折するなど脊髄を損傷した患者は国内に10万人以上いるが、根本的な治療法がなく、iPS細胞の移植で損傷部の神経を再生する試みに期待が寄せられている。損傷した脊髄などの中枢神経の再生には、傷の周りに発生する化合物のコンドロイチン硫酸が障害となるため、武内准教授らはコンドロイチン硫酸を抑制する遺伝子の改変方法を開発し、マウスで実験した。
その結果、コンドロイチン硫酸を抑制したマウスは脊髄を傷つけても損傷部分が小さくなり、神経の再生が見られた。さらにコンドロイチン硫酸とは別の糖鎖(とうさ)が傷周辺に現れ、神経の再生を促すことを発見した。「このマウスの運動機能は、過去に報告されたどの方法よりも回復した」(武内准教授)という。また、武内准教授らは、コンドロイチン硫酸を抑える遺伝子を染みこませたばんそうこうを脊髄損傷のマウスに貼り、患部周辺の神経を一部再生することにも成功した。
武内准教授は「神経を完全に再生させることはできないが、iPS細胞の移植と組み合わせれば、半身不随などになった人の運動機能を回復させる可能性は高くなる」と説明。「今後は大きな動物でも研究を重ね、早く実用化できるように、遺伝子の代用ができる薬も見つけたい」と話す。iPS細胞を用いた神経再生に取り組む慶応大学医学部の岡野栄之教授(54)は「脊髄の神経再生に糖鎖が重要な役割を果たしていることを明らかにした。今後のiPS細胞移植のヒントになる」と今回の発見を評価している。
<コンドロイチン硫酸> 糖が長くつながった糖鎖の一つで、動物の軟骨などに含まれ、脳や神経系組織にも広くみられる。脊髄や脳などの中枢神経を損傷すると、コンドロイチン硫酸が傷の周りに発生し、神経再生を阻む。このため神経が伸びなくなって、下半身不随など運動機能に障害がでる。